1.遺伝、栄養、運動が重要な因子 わが国の骨粗鬆症患者は、21世紀初頭には1,000万人を越すだろうといわれており、これは腎不全で透析を受けている人が約10万人であるのに比べても、非常に膨大な数である。最近の統計によれば、寝たきりの2番目の原因が骨折であり、このことから考えても、骨粗鬆症の問題には真剣に取り組む必要があると思う。 骨粗鬆症の予防には2通りある。 そこでより有効な予防方法として、若いうちにできるだけ骨量を高めておこうとする。もう一つの考え方が有力視されるようになってきている。骨量をできるだけ高めておけば、年をとって骨量がある程度減少しても、絶対骨量が多いので骨折しなくなるのではないかという考え方である。世界的にも、この考え方が主流となってきている。 では、次にどういう条件で骨量が大きくなるのかを考えてみたい。 遺伝については、長寿科学研究班の最近の研究によって次のようなことが明らかになっている。 また、昔から一卵性双生児を使った研究が数多くあり、それらの成績によると、25歳ぐらいまでは双生児の骨は骨量も長さもほとんど同じであるが、25歳を超えるころから双生児の骨の骨量と長さ に差異が出現することがわかっている。 図1は、一卵性双生児と二卵性双生児について、それぞれ6〜18歳の骨量と骨幅を調べたデータである。この図をみると、二卵性双生児の場合、兄弟あるいは姉妹の骨量・骨幅にかなりの差異がみられるものがあるのに対し、一卵性双生児では兄弟・姉妹の間に骨量・骨幅にほとんど差がみられないことがわかる。
現在では、遺伝子を調べて、低骨密度のリスクをもっているかどうかがわかるようになってきた。遺伝の要因があれば骨粗鬆症になる危険率が高いため、この遺伝要因を若いときに早く発見し、将来、骨粗鬆症にならないためのカルシウム、ビタミンDの投与やライフスタイルの改善をあらかじめ行うことが可能になってきたのである。 ■・項目に戻る
2.未熟児はすでに骨粗鬆症 ところで、人の一生はいつからはじまるのだろうか。それは母親のお腹で受精したときにはじまる。骨量の一生を考えるとき、胎児の時期が最も重要な時期である。赤ちゃんの骨をつくるためには30〜50gのカルシウムが必要で、成人のカルシウム所要量がわずか0.6g/日であることからみると、これは大変なカルシウム量であることがわかる。 もし、母親が妊娠中にカルシウムをまったく摂取しなかったとしたら、赤ちゃんに必要な30〜50gのカルシウムは、母親の骨から溶けだして供給されることになる。成人では体内にカルシウムが約1kgあり、その99%は骨に蓄えられている。
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厚生省の『小児の骨発育と骨障害に関する研究班(班長:清野桂紀)』によって、膨大な人数の男女を対象に日本人の骨塩量の一生が調査された。その結果、女性は16〜18歳、男性は18〜20歳で骨塩量が最大値に達することがわかった(図3,4)。
こうした加齢による骨塩量の低下は確かに大きな問題であり、そのため、これまで骨塩量の低下だけが問題とされてきたが、最近では、それよりも発育期の骨塩量を増加させる方が重要視されるようになってきたのは、先に述べたとおりである。また、老年期の骨塩量の低下のスピードに比べ、思春期の骨塩量増加のスピードが3倍も上回ることからも、発育期・思春期こそ骨を増やすのに効果的な時期であり、この時期が人生の最大骨量を増やす一番のポイントだといえる。 その観点から、われわれは現代の日本の子どもの骨の状態を実情調査した。保育園の幼児から高校生までの骨を調べたデータによると、骨折する園児、学童、生徒の絶対数が増えているだけでなく、骨折率も増えていることがわかった。岡山県の調査では、最近7年間で、中学・高校生の骨折率が1.5倍となつている。しかも、それらの骨折した子どもの骨塩量を測定すると、骨塩量が低い子どもに骨折率が高いことがわかった。 本来、骨塩量が急激に増えなければならない時期に骨塩量が増えないと、将来の骨粗鬆症予備軍に結びつく。若い時期に骨塩量が増えない原因は、一般的にはカルシウム摂取量の不足が考えられる。朝飯抜き、ダイエット、拒食症などが増えていることも無関係ではない。これらはいずれも骨塩量の減少につながる。普通の子どもは猛烈なスピードで骨塩量が増加しているのに、ダイエットや拒食症では逆に骨塩量は減少していく。重要な発育期に骨塩量が減ってしまうと回復不可能となり、取り返しのつかないことになってしまう。 ■・項目に戻る
4.カルシウム摂取、運動ともに重要 遺伝、栄養、運動が骨を増やす因子となっているのは、それらの因子がそれぞれ骨を増やすホルモンに影響を与えるからである。さらに、それらのホルモンが成長因子に影響を与え、それぞれの成長因子が骨をつくるわけである。一般的には、男性では男性ホルモン、女性では女性ホルモンが多いと骨密度が高くなる。
運動の影響は大きい。運動すると骨が非常によく増える。その運動は運動部の激しい運動だけではなくおだやかな運動、例えばよく歩くことも骨に良い結果をもたらす。 逆に、運動量の多い女子のマラソン選手には、骨塩量の低下がみられる。女子にとって、あまりにもハードなスポーツなので消耗が激しいことと、ハードな運動のため生理がなくなり女性ホルモンの分泌に悪影響を及ぼすからだと考えられる。(図6,7)。
栄養の面では、カルシウムの摂取量が問題となる。われわれのデータでは、中学・高校生の男女とも必要量の60%しか摂取していない状況にある。わが国の厚生省が決めたカルシウム必要量は世界的にみると非常に少なく、例えば、日本では発育期の女子が700mg/日となっているのに対し、アメリカでは1,200〜1,500mg/日である。日本の必要量はアメリカの標準の半分である。体格の違いはあるが、日本の所要量は非常に少ないといえる。しかもこの所要量さえも充足していない日本の現状は、深刻であるといわざるを得ない。 ところで、骨を増やすためにはカルシウムの摂取と運動とどちらが重要かがよく問題にされる。 アメリカで、25歳前後の女性を対象に、カルシウム摂取量を一定にして万歩計で運動量に変化をもたせたグループと、万歩計で運動量を一定にしてカルシウム摂取量を変化させたグループとに分けて調べたところ、どちらのグループの女性も骨塩量が増加していた。この実験から、骨塩量の増加には、カルシウム摂取も運動も重要であると結論された。先に述べたように、骨量を高める重要な因子である運動、栄養を組み合わせて考えることが肝要である。 ■・項目に戻る
5.小学生の検診が最も大切 以上のことから、現在、骨粗鬆症の検診が盛んにおこなわれるようになったが、骨粗鬆症の検診は小学生のときに行うのが最も重要である。小学生のときに検診を受け、その結果、骨塩量が低いとわかった子どもは、カルシウムを多く摂取し、よく運動をするなど環境を整え、10年ぐらいの間に骨塩量を増やすようにすべきである。これが骨粗鬆症の最良の予防法だといえる。 岡山県は県が骨塩測定装置を備えたバス2台を購入し、子どもの骨塩量を測定している。測定法は害のない超音波によるものがよく、測定部位は下腿骨が最もよい。検診の結果低骨塩児と診断された子どもには保健指導を徹底的に行わなければならない(表2)。
こうした人の一生と『骨量の一生』を考えた骨粗鬆症予防を進めていくことが、これからの高齢社会に求められている。 |