ヒトの生涯における骨代謝

中村利孝:産業医科大学整形外科

はじめに
1.成長期:モデリングがさかんになり、骨の量とサイズが増大
2.成長期の女性ホルモンと骨代謝:エストロゲンが海綿骨を増量する
3.成熟期:リモデリングにより骨量を維持する
4.閉経期:エストロゲンの欠乏と海綿骨の急激な減少
5.高齢期:加齢と皮質骨の変化
6.加齢による骨の変化
1)骨 量
2海綿骨の形態の変化
3)皮質骨の変化
7.加齢によるリモデリングと吸収-形成連関(カップリング)

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はじめに

 ヒトは地上で生活するようになって、重力に抗してからだを支える必要に迫られ、同時にからだ中に血液を循環させるために心臓の筋肉を収縮する力が必要になった。その両方を支えるのが骨である。骨が力学的な強度を維持する役割を果たすことは周知のところだが、心臓の収縮をつかさどる微量のカルシウムを貯蔵して必要な量を調節し体内に放出しているのも骨である。骨は全身のカルシウム濃度を調節する貯蔵庫として重要な役割を果たしている。

 骨は、周囲を覆う厚い皮質骨とその内側の海綿骨、そして骨髄から成り立っている。からだを支える機構のほとんど大半は皮質骨が担い、海綿骨は生命維持に不可欠なカルシウムの調節機構であるとともに支持組織としての役割も果たしている。

 皮質骨も海綿骨も、生まれたときに備わった組織をそのまま維持しているのではなく、毎日少しずつ入れかわり、一生を通じて代謝し続ける。骨における代謝は、基本的には、成長期、成長完了後の成熟期、閉経によりはじまる高齢期に分類できる。

 本章では、この各世代における骨代謝のあらましを説明していくが、その前提として、ミクロなレベルでの骨代謝とはどういうものかについて簡単に触れておく。

 骨は成長とともに大きくなるが、まっすぐに大きくなるのではなく、成長期には骨を削ったり増やしたりして大人の形に変わっていきながら、サイズを大きくし骨の量も増やしていく。これを『モデリング』という。成長期にはこのモデリングが主体となる。

 こうしてできあがった骨は、実は毎日入れかわっている。骨を住居に例えると、骨のどこかでは、毎日、柱を壊したりつくったり壁塗りをするといったことが行われている。これを『リモデリング』という。

 この『リモデリング』は骨の微小単位ごとに行われる。骨の表面の皮質骨の微小単位は『オステオン』、海綿骨の微小単位は『パケット』と呼んでいる。また、それぞれの微小単位の中で骨を壊すのは破骨細胞、つくるのは骨芽細胞と呼ばれ、さらに壁を塗る細胞などがあり、いずれも骨の中の骨髄から供給されている(破骨細胞、骨芽細胞などの詳細はV-1章参照)(注1,2)。

(注1)リモデリング骨内の骨代謝と骨の強度
リモデリング部位内では二つの異なった骨代謝が行われる。一つはリモデリングであり、古い骨単位を破壊して新しく骨形成する代謝である。もう一つは骨単位の維持すなわち骨の微小環境の維持であり、このための完成されたオステオンやパケット内での骨表面細胞の能動輸送も行う。

通常、リモデリング部位内の5〜10%の骨単位がリモデリングされ、その時間はパケットでもオステオンでも一様である。このリモデリングは全身のカルシウムの移動の要請にによって行われており、カルシウムは単なる栄養素ではなく、骨代謝の鍵を握る重要な存在である。

リモデリング後の骨の強度はどうか。皮質骨ではリモデリングの増減が強度に与える影響は比較的少ない。しかし海綿骨ではリモデリングが増えるほど伸長力やねじれに対する強度が弱まる。海綿骨でのリモデリングの増加は、骨量の増加が伴わないかぎり骨の強度を低下させる。

(注2)リモデリングの周期
微小単位での『リモデリング』の周期は正常な人で100日から150日といわれるが、全身の『リモデリング』というのは年齢によって違いがある。一般的に20代前後から30代では数年で入れかわるとされている。ところが年をとるにつれて『リモデリング』には時間がかかるようになる。

 さて、ヒトは成長期には、骨をモデリングしながら、リモデリングも開始し、いわゆる成長が止まると、モデリングした骨をリモデリングで維持していくことになる。ただし、モデリングも生涯を通して少しずつは行われており、例えば、身長が止まっても、今度は横方向のモデリングが行われる。

 以上を前提として各世代の骨代謝について説明していこう。

1.成長期:モデリングがさかんになり、骨の量とサイズが増大

 生後まもない子どもの骨はその4割が軟骨で、その後、首が座りハイハイをするようになるにしたがい、だんだんと骨ができていく。生後1歳ごろになると、ほとんどすべての骨ができあがり立ち上がれるようになる。

 このとき、副甲状腺ホルモンとビタミンDの働きによって、カルシウムが取り込まれ、軟骨が石灰化して骨がつくられていく。成長期はず骨のモデリングがさかんになり、できあがった骨をリモデリングしていくことになるが、全身的にはモデリング主体の時期であり、骨の量とサイズが増大する。

 成長期は主に二つの部位で代謝がさかんになる。その一つは骨幹端部と骨幹部である。
骨幹端部では、皮質性外殻の外側から骨吸収、内側から骨形成が行われ、骨の外径が減少していく。
骨幹部では外側で形成された骨質に血管が侵入し、骨吸収に続いて皮質骨の微小単位であるオステオシンがつくられ、皮質骨が形づくられていく(モデリング)(図1)。

 骨の縦方向の成長が停止すると、皮質重量が増加する。これにはカルシウムとビタミンDの関与が大きく、この時期にカルシウムの摂取を増やし、紫外線に当たるなどビタミンDを活性化させると皮質骨量は明らかに増大する。


【図1】皮質骨と海綿骨の形成
@皮質骨は骨の外側と内側とでの骨の吸収と形成にによりつくられる。
A海綿骨は軟骨帯からつくられる。

 また成長ホルモンも皮質骨量を増加させる。この時期のカルシウム摂取量が1日当たり800〜1,200mg以上だと皮質骨量が増大する。

 もう一つの代謝がさかんな部位は、骨の両端の部分の成長軟骨(骨端線軟骨)に続く第1次海綿骨である。骨端線軟骨に続く第1次海綿骨では、破軟骨細胞が石灰化した軟骨基質を破壊して骨髄腔を拡大する一方で、骨芽細胞が残った軟骨基質を中心にして骨基質を添加していき、少しずつ第2次海綿骨に置き換えいく(リモデリングしながらのモデリング)(注3,4)

(注3)運動は骨形成に重要な役割を果たす
そもそもヒトは陸上での運動や物理的負荷がかかるようになって十分な強度をもつ骨格が必要になった。心臓から血液をからだ中に回すという心筋の収縮をはじめとする生命維持にカルシウムが必要となり、その供給源として骨吸収と骨形成が行われるようになった。副甲状腺が発達し、副甲状腺ホルモンがカルシウムを効率よく動かすようになった。子どもに伝えるためにエストロゲンが骨 - カルシウム代謝に影響を及ぼすようになったのも、陸上動物への適応現象と考えられる。

こうして骨格を得た動物がからだを動かさないとどうなるか。実験動物のラットの脛骨に近い海綿骨では、神経切除でも宇宙飛行でも3週間で約40%の骨量が減少する。

からだを動かさなかったり荷重が減ると、骨吸収が増加し骨形成が減少することもわかっている。

さらに副甲状腺を摘出したり、カルシウム摂取が不足すると、骨量減少が加速することが観察されている。

●(注4)運動と性ホルモンとリモデリング
力学的刺激は、骨の再生に影響を及ぼす因子のうちヒトが調整できるものの一つで、活動が減ると『リモデリング』はしにくくなる。しかし、この力も性ホルモンの影響力には及ばない。女性ホルモンも男性ホルモンも、荷重や運動刺激を骨芽細胞に伝達する作用があると考えられる。例えば同じ世代で閉経後の人と閉経前の人に運動をさせて骨の量を比べると、閉経後の人では運動の効果があまりあらわれないが、閉経前の人では運動効果があらわれることが証明されている。

2.成長期の女性ホルモンと骨代謝:エストロゲンが海綿骨を増量する

 女性は、初潮とともに女性ホルモンのエストロゲンを分泌するようになり、妊娠したときに胎児に与えるべきカルシウムを海綿骨に蓄えはじめるようになる。すでに述べたように、生まれたばかりの赤ちゃんの骨の4割は軟骨だが、残りの6割の骨は胎児のときにすでに石灰化されている。そのためカルシウムは母体の海綿骨にたくわえられ、妊娠時に子どもに供給される。分娩後はカルシウムは母乳から補給される。

 成長期の女子は、男子と同じようにモデリングによって身長が伸び、体重が増加していくが、10〜13歳ぐらいになってエストロゲンが分泌されるようになると、骨端軟骨層が閉鎖して身長の伸びが急速に低下する。骨の長さの成長が停止しはじめると、エストロゲンは海綿骨の密度を増加させるように働く。 つまりエストロゲンは骨の吸収と形成の量をコントロールして骨梁幅を増加させ、海綿骨量を急速に増やしていく。これは自分自身のためだけでなく、将来、妊娠し分泌する子どもに渡すためのカルシウムをたくわえるためでもある(図2)。

【図2】海綿骨量を増加させるエストロゲン
エストロゲンと骨・カルシウムとの環形は、種の保存にも一役買っている。この作用は鳥類で最もよく知られている。鳥の卵の殻は、エストロゲンによって骨にたくわえられたカルシウムが、子宮に移動してつくられる。

 成長期に過度の運動や低栄養によってエストロゲンの分泌が低下すると、成長期の海綿骨の増加は抑制されるが、卵巣機能が正常化してエストロゲンの分泌が低下すると骨量は再び増加する。また、初潮の年齢が遅くても骨量増大のピーク量は必ずしも低くないとの観察もある。

 また、女性は子どもを生むと海綿骨が減るわけではなく、エストロゲンが分泌されるかぎり、生まれてくる子どもの骨形成に必用な量を維持していくことになる。

3.成熟期:リモデリングにより骨量を維持する

 骨が最大骨量に達したのち、加齢によってともすると、骨量は減少しがちになるが、骨はリモデリングによって骨量を維持していくことになる。その中である程度のモデリングも行われていく。

 カルシウムが一番多い時期、つまり最大骨量に達する時期がいつかは正確にはわからない。というのもヒトのカルシウムの全体量を測ることが大変難しいからである。現在、最大骨量はDXAという機械でで測定し、投影された皮質骨と海綿骨の両方を合わせた量で表される。ただし、サイズが大きくなればカルシウムの量は相対的に低くみえ、そのために最大骨量がからだの中にある骨量そのものを表しているかどうかはわからないともいえる。

 ところで、ヒトは何歳ぐらいで最大骨量に達するのだろうか。最大骨量をある一定期間維持し、その間、骨をプロデュースできる期間の真ん中あたり、つまり10歳前後から20歳代にかけての10年ぐらいが最大骨量の期間だと考えるのが妥当なところだろう。従来、最大骨量に達すのは30歳代といわれてきたが、最近では20歳代でピークになり、その後、30歳代までピークを維持すると考えられる。

 このピークを維持するには、女性ではカルシウムの供給とエストロゲンの順調な分泌が必要であり、カルシウムだけにとってもエストロゲンが不足すると、骨は強くならないと考えられる(注5)。

(注5)男性と海綿骨
[New England Joumal of Medicine]によると、28歳でエストロゲンの受容体が欠損している男性で実際に海綿骨が少なく骨年齢が15歳相当しかない例が報告されている。この男性はエストロゲンの血中レベルが健常な男性に比べて異常に高いにもかかわらずエストロゲンが働いていなかったと考えられる。このことは男性でもエストロゲンが骨の成熟に大切な役割を果たしていることを示唆している。

また私見ではあるが、骨芽細胞は男性ホルモンも女性ホルモン化するアロマターゼという酵素をもっていて、男性ホルモンが骨のところへ行くと、ごく微量だが女性ホルモンに変わり、海綿骨のリモデリングに係わっているのではないかとも考えられる。

 さて成熟期の骨代謝では男女ともリモデリングが主体となる。リモデリングは、皮質骨のオステオンの集合体と海綿骨のパケットの集合体で行われる。ことに海綿骨のパケットとなってリモデリングが行われる。

 皮質骨では中間層がリモデリングの行われる部位であり、内層と外層はモデリングが行われる部位である。そして皮質骨の中間層でリモデリングが行われる部位の割合は、成長とともに増加し、成人では80〜90%に達している。

 一方、モデリングは、骨単位の微小構造からなる区域外の層板骨全体で少しずつ行われる。頭蓋骨や鎖骨、胸骨、骨盤などの扁平骨は骨髄内にリモデリングの部位である海綿骨をもつが、これらの骨の皮質の大部分は外層と内層だけからなり、リモデリングの部位の中間層はきわめて少ない(注6)。

(注6)骨の種類による代謝の違い
推  体・・・・・・・リモデリング部位が多くモデリング部位が少ない
長管骨・・・・・・・リモデリング部位もモデリング部位も少ない
扁平骨・・・・・・・リモデリング部位が少なくモデリング部位が多い

4.閉経期:エストロゲンの欠乏と海綿骨の急激な減少

 骨は最大骨量を維持したあと少しずつ骨量が減少してくるが、その変化は、海綿骨と皮質骨とで非常に異なる。

 海綿骨は男性も女性も最大骨量を維持したあと、加齢によって減少傾向をたどるのだが、女性では閉経期の約10年間に急激に減少し、その後少しずつ減少していくことになる。これにはエストロゲンの欠乏が大きく関わっている。

 つまり、女性では卵巣機能が低下しエストロゲンが分泌しなくなると、リモデリング部分の海綿骨が急速に消失していく。その過程は次の通りである。

 まず、エストロゲンが欠乏すると、骨髄での破骨細胞の生産が増加し、骨の吸収が進んで海綿骨のパケットの数が増加する(=リモデリングを高める)。このときのパケット内での吸収と形成の連関が正常であれば、骨芽細胞が増加してバランスがとれ骨量は減少しない。
ところがエストロゲンの欠乏で吸収と形成の連関機能に障害が起こると、破骨細胞の機能が暴走的に増加する。

パケットの深さは50μm程度だが、エストロゲンの欠乏の初期には50μmまで掘り進んでも吸収を止めず、骨の柱である骨梁に穴を開けてしまう。
こうして幅200μm前後ある骨梁がずたずたに断裂することになる。海綿骨のパケットが破壊されリモデリングの部位が減少するため、当然、リモデリングの能力は低下していく。これが閉経後骨粗鬆症である(図3)。

 これに対し、皮質骨の変化は海綿骨とは異なる。
エストロゲンが欠乏すると骨髄に面した皮質骨の内面骨では骨の吸収が起こり、オステオンは破骨細胞の増加にってその数が増えるが、厚い皮質の壁に囲まれているため、骨の吸収が進んでも海綿骨梁のように穴があいて次に骨形成の起こる場所がなくなることはない。必ず一定の時間をかけて骨形成を導くことができる。また、外骨面では骨芽細胞の機能も高まるため、吸収と形成のバランスは保たれる。一時的にはリモデリング能が高まることもある。

【図3】骨量減少の仕組み

【海綿骨の減少】
エストロゲンの減少により破骨細胞が増加して海綿骨が破壊される。
女性に多い。

【皮質骨の減少】
加齢による皮質骨の減少は骨髄の細胞が皮質骨内へ侵入していくことによる。
男女とも生じる。

 以上をまとめると、閉経後骨粗鬆症では、海綿骨が強く減少するが、皮質骨内でリモデリングが行われる部位はあまり減少せず、骨量もあまり減少しないといえる。皮質骨は加齢によってのみ減少するといえる。

5.高齢期:加齢と皮質骨の変化

 ところで50歳代後半から60歳代に入ると、加齢により男女とも副甲状腺ホルモンの上昇がみられるようになる。消化管でのビタミンDに対する反応低下からカルシウムの吸収が低下し、骨芽細胞の副甲状腺ホルモンに対する反応性の低下などの要因も関与して、副甲状腺の機能が高まるようになる。副甲状腺の機能が高まると、骨吸収と骨形成の両方が増加する。

 すると、皮質骨の内側の骨髄に面した内骨面と外側の筋肉に面した外骨面では、副甲状腺ホルモンが増え続けるために骨吸収が増え、皮質骨は内側から骨の吸収が進み、皮質骨が薄くなっていく。皮質骨のリモデリングスペースであるオステオンの直径は拡大し、海綿骨様に変化しながら吸収され消失していく。

 この時期には、骨吸収が行われるのに骨形成が十分に行われないため、そのすきまに骨髄細胞が侵入していくことになる。こうして高齢期には皮質骨性つまり高齢者の骨粗鬆症が起こる。これは男女ともに起こってくる(図3)。

 こうして高齢期ではリモデリングスペースが少なくなっていくために、骨代謝はモデリングが主体になっていく。しかし、一方で加齢により、腸管からのカルシウムの吸収がさらに衰えるとともに、ビタミンDも働きにくくなる。また骨の中のコラーゲンの働きも低下し、骨芽細胞も弱ってくる。つまりモデリングを進めるための条件もそろいにくくなり、モデリングの速度は若いときよりも極めて低下していく。70〜80代になると、カルシウムのストックが少なくなり、骨量が次第に少なくなっていく。

6.加齢による骨の変化

1)骨 量

 閉経期の最初の10年で海綿骨の減少8%、皮質骨の減少は2%と考えられる。その後の15年間では海綿骨の減少は2%、皮質骨の減少は3%と考えられる。

2海綿骨の形態の変化

現在のところ加齢による海綿骨の構造の変化は
1.男女とも骨梁数と骨梁幅の減少が基本である。
2.女性では閉経期に一致して骨梁数の減少が重なると特徴づけるのが一般的である。
海綿骨の骨梁表面の加齢変化をまとめると、
1.骨吸収面は増加するが破骨細胞数は変わらず、
2.骨芽細胞の数は減少するが存在する骨量に対する骨形成率は増加している
となる。

 リモデリングスペースであるパケットは閉経期に骨梁裂孔が生じることで崩壊し、その数は減少する。また閉経期以降も存続するパケットでは年とともにその厚さが減少する。さらにパケット内の骨細胞の数も加齢とともに減少していくことが観察されている。また高齢者では骨が吸収されたあとの新生骨の形成が中途でストップされ、骨が不完全にしか充填されないパケットもみられる。

 以上をまとめると、加齢により骨梁幅の減少は、バケットのサイズの低下であり骨形成の低下によることが強く示唆される。

3)皮質骨の変化

 長管骨の外径と内径は加齢とともに増加する。どの骨でも皮質骨幅は加齢により減少するが、皮質骨の横断面積の減少は部位によって異なる。皮質骨は、大腿骨では全横断面があまり減少しないが、前腕骨や中手骨では強く減少する。

皮質骨の加齢による変化は以下のようにまとめられる。
1.外層の骨形成は低下しない。
2.中間層の骨形成と骨吸収は増加する。
3.内層での骨吸収は増加し、骨形成は低下する。
4.オステオンの加齢による変化は「5.高齢期」に述べた通りである。

7.加齢によるリモデリングと吸収-形成連関(カップリング)

 以上のように加齢によりオステオンやパケットなどの微小単位内部での代謝(主に骨形成)は低下し、微小単位は崩壊していくことになる。しかしこうした微小単位内だけが骨の代謝の場所ではない。微小単位以外でも吸収と形成(吸収-形成関連)は行われている。
例えば、閉経期の海綿骨ではパケット内部の骨形成が低下するが、パケットに関与しない層板骨の形成は維持され、骨梁表面全体としての骨形成も維持される。
また、皮質骨ではオステオン内部の骨形成が減って再構築されるオステオンの数が減少するが、外層と内層でのオステオンの形成に関与しない骨形成は維持され、外径は増加していく。この状態を全身的なレベルでみると、骨吸収は進むが、骨形成は維持または軽度に進む状態として観察される。つまり全体としての骨量は骨吸収が進むわりには減少しないともいえる。

 高齢になると、骨代謝の主体は微小単位から微小単位以外の部位に移っていく。そして微小単位での吸収と形成は低下するが、それ以外での機能的な吸収と形成の連関は存在しつづけるのだろうと考えられる。例えば、皮質骨内層の骨吸収と外層の骨形成の連関などが機能的なカップリングの主体になるかもしれない。

 このカップリングが緊密なみのではなく、『ゆるやかなカップリング』が期待できれば、骨吸収を抑制するこしとによって、皮質骨を強化できるかもしれない。これが可能であれば、高齢者の骨粗鬆症の治療で実用の道が開けるかもしれない。