骨粗鬆症
【2.骨塩量の定量】

山本逸雄
滋賀医科大学放射線科



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はじめに
1.骨量評価法の種類
2.どの骨量評価法を用いるか
3.骨塩定量法による被曝
4.骨量測定の意義
5.骨塩定量法における基準値
6.骨構造評価法
おわりに
参考文献


はじめに

 骨粗鬆症とは骨の量が減少して、骨の微細構造の劣化を起こし、骨強度が低下し、骨折を起こしやすくなった疾患と定義されている。したがって骨粗鬆症の診断にあたっては、骨の量の減少、骨の微細構造の劣化、骨強度の低下などの評価などが求められる。
骨の量の低下は、X線写真でも判定できるが、骨の量を定量できればより客観的に評価できる。骨の微細構造の劣化は、骨生検を行わないと実際には評価できないが、 in vivo で評価しようとする試みが行われている。
ここでは、骨量評価法、および新しい骨構造評価の試みなどについて述べる。骨粗鬆症の診断にあたっては、骨強度を直接評価できればそれにこしたことはない。骨強度と骨塩量とは相関が高いが、骨塩定量法には若干の問題点あるいは限界があり、より直接的に骨強度が評価できればそれに越したことはない。この点についても少し触れたいと思う。

1.骨量評価法の種類

 骨量の評価の目的で、骨塩定量が行われる。骨塩(ヒドロキシアパタイト)はほかの軟部組織に比し放射線に対する透過度が低いため、放射線の吸収率を求めることによりその量を知ることができる。従来、放射線としてラジオアイソトープを用いていたが、取り扱いの容易さやX線技術の進歩もあって、最近ではX線を用いる方法にとって替わられた。
表1に現在用いられている骨塩定量法を示したが、その方法として、2つの異なるエネルギーのX線ビームを用いるDXA法( dual x-ray absorptiometry )、1つのエネルギーのX線ビームを用いるSXA法( single x-ray absorptiometry )、X線写真を用いる方法、X線CTを用いる方法、超音波を用いる方法などがある。

【表1】骨量測定法
測定法の種類測定対象部
X線ビームを用いる方法DXA法腰椎、大腿骨頸部、全身骨、橈骨、踵骨など
SXA法橈骨、踵骨
X線写真を用いる方法CXD法、DIP法など中手骨、橈骨遠位部、指骨など
X線CTを用いる方法QCT法腰椎、大腿骨など
pQCT法橈骨、頸骨、大腿骨など
超音波を用いる方法QUS法踵骨、頸骨、指骨、膝蓋骨

 DXA法は現在最も広く用いられている骨塩定量法で、わが国には6,000台以上ある。全身や腰椎等の幹部の骨を測定できる装置と、前腕骨や踵骨などの末梢骨測定用の装置がある。
SXA装置は、被験部を水槽にひたす必要があるため踵骨や前腕骨などの末梢に限られる。その他はDXAと大差ない。骨粗鬆症の診断基準は腰椎のDXA法での測定値が基準にされており、腰椎DXA法は標準的な骨塩定量法といえる。

 X線写真を用いる方法は、被験部を標準物質とともに>X線写真を撮り、X線フィルムでの骨の濃度を定量する方法で、指骨や中手骨、前腕骨遠位部などの骨塩量を定量することができる。フィルムの濃度分析装置以外には特別の設備を必要としないため、X線撮影装置さえあればどこでもできるという手軽さがあり、またフィルムの分析装置が替わってもフィルムさえあれば繰り返し測定ができるという利点がある。ただ、現時点では末梢骨の測定に限られる。

 X線CTを用いる方法は、CT法におけるX線に対する物質吸収の感度の良さと、その3次元データの性質を利用した骨塩定量法で、原理的にはDXA法などよりも優れていると思われる方法である。体積当たりの骨塩量(骨密度)を測定することができる。通常のX線CT装置を用いても可能で、脊椎骨の骨密度の測定を行う方法(いわゆるQ(quantitative)CT法)がある。機器が大がかりで、被曝量が骨塩定量の中では最も多いという問題がある。ただ、その骨塩定量法の原理的な利点は捨て難く、近年、骨塩定量専用の小型の装置が登場している。末梢骨の測定用でありpQCT(peripheralQCT)と呼ばれている。本装置は小型で、橈骨や頸骨などを皮質骨、海綿骨に分けて測定でき、また幹部に対する被曝はほとんどない。

 超音波法は、X線を用いずに、超音波の物理的性質を利用して骨密度を定量しようとするものである。超音波法は一般に2種類の測定を行っている。一つは超音波の骨中の伝導速度の測定で、もう一つは超音波の骨による減衰の測定である。
物質中の音波の伝導速度はその物質の弾性率(ヤング率)と密度の商に関連しており、この商は伝導速度の2乗に比例する。骨のヤング率は骨においては密度の3乗に比例するという実験的成績があり、このことより音波の伝導速度は骨密度と比例すると考えられる。
実際は食い違いもあるが、伝導速度は骨密度と正相関を示す。また、音波の減衰は散乱や吸収によって起こるが、吸収はその通過する物質の構造や密度などに関連している。特に波長が短いほど減衰が大きくなる。これらの性質を利用して骨密度あるいは骨の性質を測定しようとするもので、実際超音波の減衰率は、>DXAなどの測定値と正相関する。

 なおほかにも、MRIを用いる方法や振動を測定する方法などがあるが研究的なもので未だ臨床には用いられていない。

2.どの骨量評価法を用いるか

 さて、以上のように多くの方法があるが、どれを用いるかということに関しては、特にきまりはない。それぞれの特徴を知って、それぞれの施設の要求に応じて、測定法が選ばれているものと思われる。個々の骨の骨折のリスクの評価にはその骨を直接はかることが最も有用である。特に骨粗鬆症に関連して問題となる骨折部位は、脊椎骨、大腿骨頸部、橈骨遠位部などであるから、これらの骨を評価できる方法が良いと思われる。
しかし、腰椎DXA法は高齢になると変形や大動脈石灰化などにより脊椎骨の骨密度を正確に反映しない可能性がある。このようなときには、むしろ末梢骨の測定が有用と思われる。各測定方法の相関関係を検討した成績を表2に示した。

【表1】各種測定法間の相関
全身骨腰椎正面大腿骨
頸部
踵 骨前腕骨
:全体
前腕骨
:海綿骨部
前腕骨
:皮質骨
踵骨
Stiffness
全身骨.859.784.828.636.626.569.670
腰椎正面.694.734.532.550467.550
大腿骨頸部.715.544.550.478.557
踵骨.598.647.512.788
前腕骨
:全体
.791.965.561
前腕骨
:海綿骨部
.625.578
前腕骨
:皮質骨
.495
踵 骨
Stiffness
全身骨、腰椎正面、大腿骨頸部はいずれもDPX-L(DXA法,Lunar社)にて測定
踵骨はSXA-2000(SXA法,Dove-Medical社)にて測定
前腕骨はXCT-960(pQCT法,Norland社)にて測定
踵骨StiffnessはA-1000(QUS法,Lunar社)にて測定した
全体で827名の成人における成績を示す

 それぞれの測定法、測定部位の相関は0.5〜0.8程度であることがわかる。したがってある部位の測定は、ほかの骨の状態をある程度反映するということがいえると思われる。またこの各部位の相関に関しては個人差がかなりみられる。このように、ある部位の測定はほかの部位の骨密度をある程度反映するが、個々の骨の評価にはその骨を直接調べることが最も有効である。骨塩定量法は目的に応じて選ぶことが理想的である。

3.骨塩定量法による被曝

 一般に骨塩定量法による被曝量は少なく、特に末梢骨専用の装置では、幹の重要な臓器に対する被曝はない。幹骨を測定するDXA法でもその実効線量は数μシーベルトで、年間自然被曝量(約2,300μシーベルト)の1日分にも達しない。このように少ないので、小児に対しても問題ない。ただ、妊娠女性に対しては少しでも被曝を避けるという観点から、幹骨の放射線による方法は避けた方がよいと思われる。

4.骨量測定の意義

 DXA法などの骨量測定法は、客観的に、例えば腰椎の骨塩量を算出する。したがって。年齢平均値あるいは成人の平均値などとの比較が容易にできる。また、腰椎の骨密度(DXA法での測定値)と脊椎圧迫骨折との関連も明らかになっており、骨折閾値というものがわかっている(*1)。このことから、骨折のリスク評価ができる。末梢骨測定法と骨折閾値との関係はまだ十分明らかにされていないが、成績の蓄積とともに明らかになっていくものと思われる。この点に関して、昨年度に日本骨代謝学会の研究グループにより骨粗鬆症診断基準案がしめされた(表3)(*2)、

【表3】各種測定法による成人(20〜44歳)の平均値とその80%、70%値
(文献2より引用)
平均値標準偏差80%値70%値
腰椎正面(g/Cu)1.1920.1460.9540.834
大腿骨頸部(g/Cu)0.9140.1190.7320.640
橈骨遠位DXA(g/Cu)0.6460.0520.5170.452
橈骨遠位QCT(mg/Cu)405.3661.68324.29283.75
踵  骨(g/Cu)0.8420.0820.6740.589
第2中手骨(mmAl)2.7410.2322.1931.919
腰椎正面、大腿骨頸部の値はDPX(DXA法,Lunar社)
橈骨遠位DXAはDCS-600(DXA法,アロカ社)
橈骨遠位QCTはXCT960(pQCT法,Norland社)
踵骨はDX-2000(DXA法,松下産業)
第2中手骨はBonalyzer(CXD法,帝人)のそれぞれのデータである。

 すべての測定法で成人平均値の80%以下を骨量減少、70%以下を骨粗鬆症(骨折があれば80%以下)とするというものである。これは成人平均値の70%値というのが骨折閾値にほぼ相当するという考えによっている。このようにほかの人と比較でき、骨折のリスクも評価できるということで、検診などへの応用が行われている。
ただ骨の密度を年齢平均値や成人平均値と比較するときに注意すべき点がある。骨密度と骨折のリスク評価は、本当は個々人それぞれにおいてなされねばならないということである。骨密度は体格によって異なるが、特にDXA法で示されるBMD(bone mineral density)は面積当たりの骨塩量で、それ自体骨の大きさの影響を受ける測定値なのである。骨のサイズの大きい人(特に前後方向に大きい骨)は、その密度の割に高く測定値が出る。骨のサイズを補正して値を求める方法も試みられているが未だ完全な方法はなく、一般には面積当たりの骨塩量を用いている。
体格や体重や骨のサイズに応じた骨折閾値というものが本来明らかにされる必要がある。骨のある部位だけを取り出すと骨の密度は差がない(石灰化障害がない限り)と考えられる。したがって、DXA法で測定しているBMDは面積当たりの骨の量と呼ぶのが正しい。

 第二点は、骨粗鬆症患者の薬物治療などの経過観察において骨量測定が有用なことである。X線写真では微量の骨塩量の変化を指摘できない。骨量計測法では多くの装置の精度は1〜3%である。したがって、理論的には2.5〜7.5%程度の変化があればとらえることができる。測定回数を増やせばさらに誤差を少なくできるので、数%の変化をとらえることができる。
薬や運動や食事などの効果をみるには、骨塩量定量は不可欠である。骨の密度の変化はせいぜい年に数%のもので、本当は骨塩定量の精度はもう1オーダー上げる必要があると思われる。現状ではこの程度にとどまっているが、腰椎DXA法においては十分臨床に用いることができる。
末梢骨の測定と治療経過との関連に関しては成績が少ない。また、骨塩定量法では骨塩量の変化をみているのであって骨の構造の変化はわからず、骨強度がどのように変化しているかということとは切り離して考えておく必要がある。

5.骨塩定量法における基準値

 各種測定法おける日本人の成績も集計され、その年齢分布が明らかになっている。昨年度日本骨代謝学会より発表されているが、成人値(20〜44歳)の平均値が示され、またそれに対する80%値、 70%値も明らかにされた。その一例を表3に示した。これらの 基準値を参考に判定を下すことができるが、値の解釈にあたっては、特に腰椎DXA法では、変形や大動脈石灰化、体位などの誤差要因を注意深く判定する必要がある。測定部位は多ければ多いほど判定が正確となるので、腰椎と大腿骨頸部のごとく2カ所以上を測定することが望まれる。

6.骨構造評価法

 先に示したように、現在行われている骨塩定量法はある程度骨の状態を示すが、骨の強さは、骨の大きさや形、また微細構造によって変わる。DXA法などの骨塩定量法では、これらの情報はあまり得られない、超音波法は、骨の構造を反映している可能性が指摘されているが、その詳細はなお明らかでない。
CTは、空間分解能にも優れ、また3次元的データを有しているので、CTを用いる方法は、骨の構造評価に最も適していると考えられる。この観点に立って、CTによる骨の構造解析が試みられている。それらの方法の一つに、椎体の骨密度の分布を定量化しようとするテキスチャー解析や骨梁の構造を解析しようとするフラクタル分析などがある。また、建築工学などの分野で用いられている有限要素分析法を用いて、CTのデータから骨の力学的応力を分析する試みも行われている。これらの方法の臨床への応用が期待されるが現時点ではなお研究段階である(*3,4)。

 CTの分解能であるが、抹消骨専用のCT装置では100〜200μmの分解能を有し、ほぼ骨梁の太さに近い分解能が得られる。また、 in vitro 用だが10μm近くの分解能を有するμCT装置も開発されている。CT以外にMR(核磁気共鳴法:Magenetic Resonance )を用いても骨の画像を得ることができる。骨は信号強度か低く、ポジネガが逆転した画像になるが、 in vivo で超高分解CTとほぼ同程度の100〜200μmの分解能、さらに強磁場装置にて、 in vitro でμCTに近い分解能の画像を得ることが可能になっている。
このような装置を用いれば、骨梁の数、太さ、結合性などの分析が可能と思われる。ただし現時点ではいずれも摘出検体の測定しかできず、将来可能になる可能性はあるが、骨梁の分析が可能なほどの分解能を有し臨床に用いることが可能な装置は開発されていない。骨の微細構造と骨強度との関連などが明らかになれば、骨折のリスク評価、あるいは治療効果などがより厳密に明らかになると思われる。

 なお、現在の方法でもCTを用いれば、皮質骨の断面の形やその量、海綿骨の密度、またDXA法にても骨の幾何学的計測は可能であり、これらと骨強度との関連を明らかにしていく研究も必要であると思われる。大腿骨頸部の長さが大腿骨頸部骨折のリスクの一つとされているが、頸部長の測定が可能なDXA法でのソフトは開発されている。大腿骨頸部の長さが長いほど大腿骨頸部骨折のリスクが高いという成績も発表されている。

おわりに

 骨塩定量法はDXA装置やpQCT装置の登場によりほぼ完成された感があり、わが国で著しい普及をみせており、骨粗鬆症の臨床に欠かせないものになっている。ただ完成したものとは思わずに、現実には精度がもう少し高ければよいのにというのが正直な印象である。より精度の高い方法や装置の開発が望まれる。また、骨梁を分析することができるような解像度の高い方法の進展も望まれる。しかも難しいかもしれないが、それが手軽に廉価にできることが望まれる。骨塩定量は、骨の量の評価から質の評価へと新たな展開が求められている。今後の発展に期待したい。

参考文献
(*1)游逸明、山本逸雄、大中恭夫ほか:腰椎骨塩量測定と脊椎骨折と閾値。日医放学誌 52:217-22,1992
(*2)折茂肇、杉岡洋一、福永仁夫ほか:原発性骨粗鬆症の診断基準。 Osteoporosis Jap 4:643-653,1997
(*3)Genant HK, Engelke K, Fuerst T et al. Noninvasive assessment of bone mineral and structure : State of the art J Bone Miner Res 11:707-30,1996
(*4)Nakamura T, Turner CH, Yoshikawa T et al. Do variations in hip geometry explain differences in hip fracture risk between Japanese and white Americans? J Bone Miner Res 9:1071-6,1994