はじめに 骨粗鬆症とは骨の量が減少して、骨の微細構造の劣化を起こし、骨強度が低下し、骨折を起こしやすくなった疾患と定義されている。したがって骨粗鬆症の診断にあたっては、骨の量の減少、骨の微細構造の劣化、骨強度の低下などの評価などが求められる。 ■・項目に戻る
1.骨量評価法の種類 骨量の評価の目的で、骨塩定量が行われる。骨塩(ヒドロキシアパタイト)はほかの軟部組織に比し放射線に対する透過度が低いため、放射線の吸収率を求めることによりその量を知ることができる。従来、放射線としてラジオアイソトープを用いていたが、取り扱いの容易さやX線技術の進歩もあって、最近ではX線を用いる方法にとって替わられた。
DXA法は現在最も広く用いられている骨塩定量法で、わが国には6,000台以上ある。全身や腰椎等の幹部の骨を測定できる装置と、前腕骨や踵骨などの末梢骨測定用の装置がある。 X線写真を用いる方法は、被験部を標準物質とともに>X線写真を撮り、X線フィルムでの骨の濃度を定量する方法で、指骨や中手骨、前腕骨遠位部などの骨塩量を定量することができる。フィルムの濃度分析装置以外には特別の設備を必要としないため、X線撮影装置さえあればどこでもできるという手軽さがあり、またフィルムの分析装置が替わってもフィルムさえあれば繰り返し測定ができるという利点がある。ただ、現時点では末梢骨の測定に限られる。 X線CTを用いる方法は、CT法におけるX線に対する物質吸収の感度の良さと、その3次元データの性質を利用した骨塩定量法で、原理的にはDXA法などよりも優れていると思われる方法である。体積当たりの骨塩量(骨密度)を測定することができる。通常のX線CT装置を用いても可能で、脊椎骨の骨密度の測定を行う方法(いわゆるQ(quantitative)CT法)がある。機器が大がかりで、被曝量が骨塩定量の中では最も多いという問題がある。ただ、その骨塩定量法の原理的な利点は捨て難く、近年、骨塩定量専用の小型の装置が登場している。末梢骨の測定用でありpQCT(peripheralQCT)と呼ばれている。本装置は小型で、橈骨や頸骨などを皮質骨、海綿骨に分けて測定でき、また幹部に対する被曝はほとんどない。 超音波法は、X線を用いずに、超音波の物理的性質を利用して骨密度を定量しようとするものである。超音波法は一般に2種類の測定を行っている。一つは超音波の骨中の伝導速度の測定で、もう一つは超音波の骨による減衰の測定である。 なおほかにも、MRIを用いる方法や振動を測定する方法などがあるが研究的なもので未だ臨床には用いられていない。 ■・項目に戻る
2.どの骨量評価法を用いるか さて、以上のように多くの方法があるが、どれを用いるかということに関しては、特にきまりはない。それぞれの特徴を知って、それぞれの施設の要求に応じて、測定法が選ばれているものと思われる。個々の骨の骨折のリスクの評価にはその骨を直接はかることが最も有用である。特に骨粗鬆症に関連して問題となる骨折部位は、脊椎骨、大腿骨頸部、橈骨遠位部などであるから、これらの骨を評価できる方法が良いと思われる。
それぞれの測定法、測定部位の相関は0.5〜0.8程度であることがわかる。したがってある部位の測定は、ほかの骨の状態をある程度反映するということがいえると思われる。またこの各部位の相関に関しては個人差がかなりみられる。このように、ある部位の測定はほかの部位の骨密度をある程度反映するが、個々の骨の評価にはその骨を直接調べることが最も有効である。骨塩定量法は目的に応じて選ぶことが理想的である。 ■・項目に戻る
3.骨塩定量法による被曝 一般に骨塩定量法による被曝量は少なく、特に末梢骨専用の装置では、幹の重要な臓器に対する被曝はない。幹骨を測定するDXA法でもその実効線量は数μシーベルトで、年間自然被曝量(約2,300μシーベルト)の1日分にも達しない。このように少ないので、小児に対しても問題ない。ただ、妊娠女性に対しては少しでも被曝を避けるという観点から、幹骨の放射線による方法は避けた方がよいと思われる。 ■・項目に戻る
4.骨量測定の意義 DXA法などの骨量測定法は、客観的に、例えば腰椎の骨塩量を算出する。したがって。年齢平均値あるいは成人の平均値などとの比較が容易にできる。また、腰椎の骨密度(DXA法での測定値)と脊椎圧迫骨折との関連も明らかになっており、骨折閾値というものがわかっている(*1)。このことから、骨折のリスク評価ができる。末梢骨測定法と骨折閾値との関係はまだ十分明らかにされていないが、成績の蓄積とともに明らかになっていくものと思われる。この点に関して、昨年度に日本骨代謝学会の研究グループにより骨粗鬆症診断基準案がしめされた(表3)(*2)、
すべての測定法で成人平均値の80%以下を骨量減少、70%以下を骨粗鬆症(骨折があれば80%以下)とするというものである。これは成人平均値の70%値というのが骨折閾値にほぼ相当するという考えによっている。このようにほかの人と比較でき、骨折のリスクも評価できるということで、検診などへの応用が行われている。 第二点は、骨粗鬆症患者の薬物治療などの経過観察において骨量測定が有用なことである。X線写真では微量の骨塩量の変化を指摘できない。骨量計測法では多くの装置の精度は1〜3%である。したがって、理論的には2.5〜7.5%程度の変化があればとらえることができる。測定回数を増やせばさらに誤差を少なくできるので、数%の変化をとらえることができる。 ■・項目に戻る
5.骨塩定量法における基準値 各種測定法おける日本人の成績も集計され、その年齢分布が明らかになっている。昨年度日本骨代謝学会より発表されているが、成人値(20〜44歳)の平均値が示され、またそれに対する80%値、 70%値も明らかにされた。その一例を表3に示した。これらの 基準値を参考に判定を下すことができるが、値の解釈にあたっては、特に腰椎DXA法では、変形や大動脈石灰化、体位などの誤差要因を注意深く判定する必要がある。測定部位は多ければ多いほど判定が正確となるので、腰椎と大腿骨頸部のごとく2カ所以上を測定することが望まれる。 ■・項目に戻る
6.骨構造評価法 先に示したように、現在行われている骨塩定量法はある程度骨の状態を示すが、骨の強さは、骨の大きさや形、また微細構造によって変わる。DXA法などの骨塩定量法では、これらの情報はあまり得られない、超音波法は、骨の構造を反映している可能性が指摘されているが、その詳細はなお明らかでない。 CTの分解能であるが、抹消骨専用のCT装置では100〜200μmの分解能を有し、ほぼ骨梁の太さに近い分解能が得られる。また、 in vitro 用だが10μm近くの分解能を有するμCT装置も開発されている。CT以外にMR(核磁気共鳴法:Magenetic Resonance )を用いても骨の画像を得ることができる。骨は信号強度か低く、ポジネガが逆転した画像になるが、 in vivo で超高分解CTとほぼ同程度の100〜200μmの分解能、さらに強磁場装置にて、 in vitro でμCTに近い分解能の画像を得ることが可能になっている。 なお、現在の方法でもCTを用いれば、皮質骨の断面の形やその量、海綿骨の密度、またDXA法にても骨の幾何学的計測は可能であり、これらと骨強度との関連を明らかにしていく研究も必要であると思われる。大腿骨頸部の長さが大腿骨頸部骨折のリスクの一つとされているが、頸部長の測定が可能なDXA法でのソフトは開発されている。大腿骨頸部の長さが長いほど大腿骨頸部骨折のリスクが高いという成績も発表されている。 ■・項目に戻る
おわりに 骨塩定量法はDXA装置やpQCT装置の登場によりほぼ完成された感があり、わが国で著しい普及をみせており、骨粗鬆症の臨床に欠かせないものになっている。ただ完成したものとは思わずに、現実には精度がもう少し高ければよいのにというのが正直な印象である。より精度の高い方法や装置の開発が望まれる。また、骨梁を分析することができるような解像度の高い方法の進展も望まれる。しかも難しいかもしれないが、それが手軽に廉価にできることが望まれる。骨塩定量は、骨の量の評価から質の評価へと新たな展開が求められている。今後の発展に期待したい。 ■・項目に戻る
参考文献
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