10.女性ホルモン補充療法の実際 1)検査と診断 まず、血液検査により卵巣機能(E2,FSH測定)を推定する。同時に骨量を測定。エストロゲンが減少していて(10pg/ml以下)、骨密度が低く、骨粗鬆症と診断された場合、ホルモン補充療法をはじめる。積極的な治療が必要とされるのは、腰椎を正面から測った骨密度が0.923g/cu未満(DPX)だが、年齢によってはこれ以上でも対策が必要なケースもある。 2)投与方法 薬の投与方法には次の3つがある。 @周期的投与法 A持続併用投与法 Bエントリオール投与法 ■・項目に戻る
3)治療期間・効果 骨粗鬆症で効果を得るためには、5〜10年といった長期的な治療が必要である。一般に治療をはじめて3年間くらいで骨量は5〜10%増加し、4年目以降、増加率は横ばいになる。といっても、効果がなくなるわけではなく、自然に任せていれば下降線をたどる一方の骨量を治療によって維持し続けるということである。治療後10年も経つと、さすがに骨量を維持することは難しくなるが、何もしなければ年に1〜2%減るところを0.5%程度の減少にとどめておくことができる。 なお、女性ホルモン補充療法にカルシトニンや活性型ビタミンD、ビタミンK、ビスフォスフォネイトを併用することで相乗効果が出る場合もある。また、ゆるやかな効果を希望する人には、エストリオールに漢方薬を併用する方法もある。 ■・項目に戻る
4)副作用 最も多くみられる副作用は、月経のときのような出血をみることである。しかし、これは子宮内膜のホルモンによる自然な反応であり、服用の方法によっては半年程度でほとんどみられなくすることも可能である。 また敏感な人で乳房に張りや痛みを感じる人もいるが、これも女性ホルモンが効いている証拠であり、からだが慣れるにしたがって症状も消える。 人によっては、まれに胃腸症状やからだのむくみなどに不快感が現れることがあるが、しばらくすれば気にならなくなることが多い。 ■・項目に戻る
5)禁忌 子宮癌、卵巣癌、乳癌の手術を受けた人の場合、術後5年以内はホルモン補充療法を控えた方がよいといわれている。5年というのは、これらの癌が治ったとされる目安であり5年以上経っても癌の再発がなく、リスクよりメリットの方が多いと判断される場合(例えば骨粗鬆症がかなり進んでいる場合)は、これらの癌の既往歴があっても、治療に踏み切ることがある。初期癌で、転移が予測されない場合は、術後から直ちに投与することも最近は多い。 子宮筋腫の患者に、女性ホルモンを補充すると筋腫を増大させるため、治療には慎重を要する。筋腫が小さく、骨粗鬆症が懸念される場合は様子をみながら投与を行い、筋腫が握りこぶし大以上の人は子宮筋腫の摘出後に行うのが一般的である。 このほか、血栓症の既往歴がある人、原因不明の出血がある人も禁忌である。また、この療法に限らず薬はすべて肝臓で処理されるので、肝臓障害の人にも差し控える。なお、欧米では肝臓に負担をかけないようエストロゲンの貼布剤(貼って皮膚から直接吸収する方法)がごく普通に使用されている。日本でも95年9月から認可されており、皮膚アレルギーの心配がなければこの方法で治療に踏み切れる。 ■・項目に戻る
11.女性ホルモン補充療法の今後 女性ホルモン補充療法は、個々の症例においてメリットがデメリットを上回ることが予想された場合に適応があり、社会的には各々の要因について一層の検討を行い、投与のための一定のガイドラインなどを設ける必要がある。 現状としては、現在投与を受けている症例数より適応例はかなり多いことが予想される。骨粗鬆症の予防をはじめとする閉経後婦人のQOLの向上と維持のため、正しい知識のもと、ホルモン補充療法を含めて、専門医による健康管理が重要である(*6)。 ■・項目に戻る
12.若い女性と骨量減少 骨量測定の普及とともに、最近は若い女性にも骨量減少がみとめられることが知られている。
■・項目に戻る
参考文献
| |
(*6) | 小山嵩夫:ホルモン補充療法"適応と限界"。日経メディカル1998年11月号:123-125 |