1.カルシウムはなぜ私たちの健康づくりに必要なのか カルシウムは、骨や軟部組織の支持体となるばかりでなく、私たち生物の体内で、神経や筋の伝達刺激やホルモンなどの分泌、血液凝固、酵素活性、受精などの調節、情報伝達機構において中心的役割を担っている。 ■・項目に戻る
2.日本人のカルシウム摂取状況 30〜40年前までは、食料不足、栄養不足にあった日本も、経済成長とともに、驚くべき速度で飽食の時代を迎えた。これに伴い、肥満や糖尿病、循環器系疾患などの生活習慣病の増加が問題となってきた。加えて、長寿社会の到来に、アクティブな高いQOL(Quality of Life)に欠かせない骨の健康も関心を集めている。 厚生省が毎年実施している国民栄養調査の結果によると、日本人の平均カルシウム摂取量は約579mg/日(平成9年)で、厚生省の定める日本人の所要量(必要量)は成人600mg/日と低く設定されているものの、充足率は90%台であり、カルシウムだけが依然不足している。長寿国のなかで日本人のカルシウム摂取量は最低レベルである。例えば長寿国アメリカ人の平均カルシウム摂取量は約800mg/日近くと高く、カルシウム推奨量(米国科学アカデミー:NAS)も日本の所要量よりはるかに高く設定されている。(表1)。
骨粗鬆症を含めた予防医学的見地から、アメリカの国立衛生研究所(NIH)においても、思春期および更年期と老年期に高いカルシウム摂取量が提唱されている(表1)。 ■・項目に戻る
3.骨粗鬆症予防とカルシウム
そして腰椎の骨密度は、40〜50歳ごろまで最大値が維持され、閉経後、急激な低下が示される(図1)。脚のつけ根の骨密度は、16〜17歳ごろピークに達した後、わずかながら低下する傾向があり、さらに閉経とともにより大きな低下がみられる(図1)。したがって女性の場合、初経と閉経が骨密度変化に強く影響を与えていることがわかる。 これらの年齢ごとの骨密度カーブから、骨粗鬆症対策の最も有効な予防は、1)思春期に最大骨量をできるだけ高めておくこと、2)青年期からの骨量減少をできるだけ抑えることにあり、女性のそれぞれの年代に応じた食生活や運動のなど日々の生活習慣を改善することによる骨粗鬆症予防法があるであろう。そこで、われわれのこれまでの骨密度測定結果などから、女性の年代別の丈夫な骨づくり、健康なからだづくりについて考察したい。 ■・項目に戻る
1)思春期 骨密度急上昇期は初経発来のころであり、2〜3年間続くものと考えられる。女性の場合、10歳ごろから身長の急激な伸びがはじまり、そして身長の伸びの鈍化につれ初経が発来し、骨密度の急上昇が起こるようである(図1)。男子の場合は、女子より身長のスパートは1〜2年遅れ、骨密度も2〜3年送れてピークに到達するようだ。
また、思春期における運動の顕著な影響も観察された。運動系のクラブ活動など(週3回以上)を、3年以上継続していた者において高い骨密度が観察され、特に13〜15歳の中学生時に運動習慣のある者の骨密度値は高く、骨密度の急上昇期における運動の重要性も示された(*6)。 以上のことから、思春期における食事制限(ダイエット)や運動不足は、骨密度上昇を抑え、最大骨量を十分に高めない可能性が示され、更年期以後の発生に関わるものと考えられる。欧米人を対象とした研究において、思春期における牛乳摂取量が、、更年期以後の骨密度と強い相関があるとの、報告がいくつかある。 また身長については、極端に低栄養状態だった時代には、牛乳を飲んでいた子どもの方が身長が高いという古い報告があるが、現在のように豊かな社会では、身長とカルシウム栄養との関係は観察されない。 なお、、思春期におけるカルシウム所要量は、日本では女子700mg/日、男子700〜900mg/日であるが、米国NIHによるカルシウム推奨量は、日本の2倍近い値が示されている(表1)。われわれの調査による都市部の女子高校生のカルシウム摂取量は約400mg/日と、予想をはるかに下回る低値が観察された。 ■・項目に戻る
2)青年期 青年期は一生のうちで最も骨密度が高く、ほとんどの骨密度測定部位で最大値が示される。青年期には食事や運動、その他のライフスタイルが骨密度に大きな変化を与えるとは考えにくい。しかし、前腕遠位部の骨密度が低い者ほど欠食が多く(*3)、食事からのカルシウム摂取量も少なく(栄養所要量の2/3)、さらに蛋白質など、その他の栄養素摂取不足も観察された(図3)。
そして、これら青年期の低骨密度の女性にカルシウム不足を補う食事をしてもらい、運動量も増加させると、半年後、骨密度に有意な上昇が観察された。これらのことから、青年期は食生活や運動の改善により、十分に骨密度を上昇させることのできる時期と考えられる(*7)。 大腿骨近位部の骨密度において、骨折歴、喫煙歴、腰痛、睡眠不足を訴える者が数%の低値を示したことから、喫煙、ストレスなども、青年期の低骨密度の危険因子ではないかと考えられる。一方、腰椎骨密度値においては、体格(体重、Body mass index )のほか、初経年齢が骨密度との強い相関因子であることから、腰椎の最大骨量は、女性ホルモンなどの内分泌因子の強い影響を受ける部位と考えられる。 青年期は、成長を終えた女性にとって、母体となるための準備段階でもあるが実際は、ファッション、マスコミなどの影響を強く受け、食生活は軽んじられ、欠食の頻度が高く、カルシウム充足率も低くなるなど、母体の準備段階としての認識は低い。 わが国の青年期におけるカルシウム所要量は男女とも600mg/日であり、アメリカの推奨量に比べはるかに低い(表1)。われわれの食事調査の結果では、19〜25歳の女子学生のカルシウム摂取量は平均 460mg/日と、低値を示した(*3)。 ■・項目に戻る
3)成人期 腰椎の骨密度は、40歳ごろまで最大骨量が維持され、成人期は骨密度の最も安定している時期と考えられる。しかし、妊娠、出産、授乳期にある女性にとって、大量のカルシウムを、胎児や乳児のために供給しなければならない。もし母体にカルシウムが十分補給されていなければ、母体の骨から胎児や乳児にカルシウムが補われる結果となる。 ■・項目に戻る
4)更年期 平均閉経年齢は50歳ごろであり、この前後数年間は卵巣機能が衰えるため、女性ホルモン分泌が急激に低下する。そのため閉経後は、年間2〜3%の骨密度減少が数年観察され、閉経後女性の骨粗鬆症の罹患率は急激に増える。したがって、更年期における骨密度減少をいかに低く抑えるかが骨粗鬆症予防の鍵となるのだが、骨密度を改善させる有効な方法の一つとして、米国ではすでに広く行われているホルモン補充療法により卵巣機能を補おうとする療法が日本でも評価されつつある。 その他、更年期における高いカルシウム摂取量および運動量の増加は骨密度減少を抑えることが期待できよう。もともとカルシウム摂取不足である日本人にとって、骨密度減少期である更年期にカルシウムを十分に摂取することにより更年期の骨吸収(骨からカルシウムが流れ出る)を低下させる可能性は期待できる。われわれの調査結果では、更年期の骨密度は閉経後年数、体重と強く相関するほか、食生活や運動量とも相関が観察され、更年期には思春期と同様、カルシウム摂取や運動が骨密度の変動に影響を与えていることがわかる(*4,8)。 更年期に急増する疾患として、骨粗鬆症のほか肥満、高脂血症、動脈硬化の進展もあげられる。更年期女性はこれらの生活習慣病を予防するために自己流の食事制限をはじめることが多く、その結果、思春期女性と同様に、カルシウムなどの栄養素摂取不足を来しやすい。この現象は、カルシウムの摂取量の高い米国においてさえ、報告されている。 更年期におけるNIHのカルシウム推奨量は1,500mg/日、あるいは1,000mg/日(ホルモン補充療法を受けている場合)であるが(表1)、日本においては600mg/日と、成人期と変わらない。更年期の生理的変化は考慮されていないようである。 更年期においては、カルシウムの摂取量は増加させても、カロリーや脂質の増加が少なく、栄養素のバランスがとれる食事が必要である。例えばカルシウム源として、普通乳のかわりに低脂肪乳や無脂肪乳が勧められる。また、関節に無理がなく、長年継続可能である運動習慣の励行は、骨粗鬆症のみならず、生活習慣病予防にも有効である。 ■・項目に戻る
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