カルシウム、その基礎・臨床・栄養

〜〜〜 編集後記 〜〜〜

 カルシウムが骨の健康にとって重要であることは、すでにあらゆる人々に広く知られるところとなっている。にもかかわらず、わが国におけるカルシウム摂取量は一日570mg程度で飽和してしまい、厚生省推奨値である600mgすらも達成していない。わが国の食生活が十分なカルシウムを摂取するのに向かないという事情もあろうが、われわれとしてはさらなる啓蒙が必要と考える。
しかしながら、カルシウムが必要であるからといって、食生活のバランスをくずしてまでカルシウムを摂取することは、むしろ弊害が多いことも予想されるところである。

 骨やカルシウムの問題に限らず、あらゆる成人病が罹患者の生活習慣と体質とのからみあいで発生してくることはよく知られた事実であり、そうであれば我々はその事実と、どのような組み合わせがどのような疾病を惹起するのかという経験則を人々に伝えなければならない。つまり生活習慣病の予防治療の原点は疾病に対する正しい知識の獲得にあると考えられる。

 さらに最近ではカルシウムと高血圧症との関連や、大腸の腫瘍性疾患とカルシウムの関連に関する新しい研究結果が報告されている( N Engl J Med ; 340:101,1999)。このような事例もまたカルシウムの臨床的重要性を再認識させるものである。
本書はこのような考えから、カルシウムに関する話題を広くとりあげ、基礎から臨床現場で働く人々にカルシウムの最近の話題を提供しようとして企画された。
各項目を担当していただいた筆者はこの方面におけるエキスパートであり、それぞれの先生方から興味深い話題が提供されたと自負している。
企画から出版までに多大の時間を要してしまったのは、一重に編者の責任であり、執筆者の諸先生方には一再ならず手をいれて頂くなどの御迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げる次第である。また出版をこころよく引き受けていただいたライフサイエンス出版の方々には感謝する。本書がわが国のカルシウム事情に一石を投ずることにならんことを祈念してやまない。

白木正孝