牛乳の栄養成分と働き


牛乳の組成 タンパク質 脂 質 糖 質
ミネラル ビタミン その他の成分

カルシウム カリウム リ ン マグネシウム
ビタミンB2 ビタミンB12 パントテン酸 ビタミンB1
ビタミンC・食物繊維・鉄 他の水溶性ビタミン
ビタミンA ビタミンK ビタミンE 水 分
ビタミンD 他のビタミン様物質


牛乳の組成

脂肪3.5%牛乳の標準組成
(100gあたり)


日本の標準的な成分組成を示したものですが、実際には乳牛の品種の違いをはじめ、季節や飼料その他、多くの要因で多少変動します。

ホルスタイン種の乳牛の
生乳の一般組成
(%)
水  分87.4〜87.8
乳固形分12.2〜12.6
脂  肪3.7〜3.9
無脂乳固形分8.5〜8.7
タンパク質3.1〜3.2
乳  糖4.4〜4.5
灰  分0.7
日本乳業技術協会・平成6年

 実際にわが国で調査させたホルスタイン種の乳牛の生乳(原料乳)の一般組成にも変動があります。

日本乳業
技術協会
参考
四訂成分表
エネルギー (kcal)6259
水  分 ( g )88.288.7
たん白質( g )3.02.9
脂  質 ( g )3.53.2
糖  質 ( g )4.64.5
灰  分 ( g )0.70.7
カルシウム ( mg )100100
リ   ン ( mg )9090
鉄 分 ( mg )0.10.1
ナ ト リ ウ ム ( mg )5050
カ リ ウ ム ( mg )150150
ビタミン A ( IU )120110
ビタミン B1 ( mg )0.030.03
ビタミン B2 ( mg ) 0.150.15
ナ イ ア シ ン( mg ) 0.10.1
ビタミン C ( mg ) 微 量微 量

 このような変動は、乳牛の系統や個体、分娩回数と泌乳期、搾乳方法、飼料や飼養の仕方、気温や季節、乳房炎などその他の要因が関係しているからです。

 中でも、季節による変動は特に大きく、乳固形分、脂肪、無脂乳固形分、タンパク質はともに6〜8月に最低となります。最高値を示す11〜2月との差は、乳固形分0.64%、脂肪0.30%、無脂乳固形分0.37%、タンパク質0.20%となります。またこのような季節や温度の違いを反映して、地域によっても変動がみられます。

 一方、わが国の一部で飼育されている
ジャージー種の乳牛からの生乳の分析例によれば、その変動は、乳固形分13.53〜15.05%、脂肪4.39〜5.67%、無脂乳固形分8.65〜9.37%、タンパク質3.45〜4.13%、乳糖4.27〜4.90%、灰分0.72〜0.73%の範囲にあります。

 このように乳成分組成からみると、ホルスタイン乳に比べて、ジャージー乳のほうが栄養素に富んでいます。しかし、牛乳生産量や生産効率からいえば、ホルスタイン牛の牛乳生産性はジャージー牛よりも、やはり勝っていると言えます。

 例えば、一泌乳期(約300日)の乳成分生産量を比較すると、ホルスタイン乳とジャージー乳はそれぞれ、脂肪264kgと230kg、タンパク質226kgと175kgと、開きが出ます。しかし、ジャージー種の乳の濃厚な味と口当たりは、一部の消費者には好まれているようです。

牛乳のタンパク質

『牛乳』中には、約3.0%のタンパク質を含み、

 【カゼイン】と【ホエー(乳清)タンパク質】に大別されます。

 【カゼイン】と【ホエー(乳清)タンパク質】は、それぞれいくつかの『タンパク質』から構成されています。


  
牛乳タンパク質の種類と
全タンパク質に対する割合
牛乳タンパク質の種類(%)[*]
カゼイン 80
αs1-カゼイン 31
αs2-カゼイン 08
β-カゼイン 28
γ-カゼイン[**] 03
κ-カゼイン 10
ホエー(乳清)タンパク質 19
血清アルブミン 01
β-ラクトグロブリン 10
α-ラクトアルブミン 04
免疫グロブリン 02
プロテオース・ペプトンほか 03
脂肪球皮膜タンパク質 01
(P.Walstra & R.Jenness 1984)
[*]種々の文献に基づく平均的な値を
全タンパク質を100としたときの割合で示した。
[**]γ-カゼインはβ-カゼインの分解物である。

 【カゼイン】は、『脱脂乳』に『酸』を加えて、pH(水素イオン濃度指数)を4.6にすると、凝固して沈殿するタンパク質です。

 pH4.6は、【カゼイン】の等電点です。

 等電点では、タンパク質粒子のプラスとマイナスの荷電が等しくなり、粒子同士が結合しやすくなり溶解度が減少します。【カゼイン】は、特に等電点で溶けにくくなる性質を持ったタンパク質です。

 【カゼイン】は、【αs1-カゼイン】、【αs2-カゼイン】、【κ-カゼイン】、【β-カゼイン】の四つの成分から構成されています。その構成割合はほぼ、4:1:1:3となっています。

 【カゼイン】は、【リン酸基】を持った『リンタンパク質』で、一分子中の【リン酸基】の数はαs1が8個、αs2が8〜11個、κが1個、βが5個となっています。

 【カゼイン】は、昔は単一の『タンパク質』と考えられていたこともあります。しかし、約半世紀前、【α-カゼイン】、【β-カゼイン】、【γ-カゼイン】の混合物であることが解りました。

 その後、この【α-カゼイン】の中には、性質の異なる【κ-カゼイン】が存在することが解り、これを除いた【α-カゼイン】を【αs-カゼイン】と呼ぶようになりました。

 さらに【αs-カゼイン】には、【αs1-カゼイン】と呼ばれる主成分のほかに、【αs2-カゼイン】も存在することが判明しました。


__【γ-カゼイン】は、 当初、独立したカゼイン成分と考えられていましたが、これは【β-カゼイン】が牛乳中の酵素により分解されて生じる産物と、同じものであることが解り、今日では【β-カゼイン】の一部とみなされています。

 しかし、新鮮な牛乳も少量とはいえ、常に【γ-カゼイン】を含んでいところから、この変化は乳牛の乳房内ですでにある程度、起こっていると考えられます。


__カゼインの各成分をアルカリ液に溶かし、中性の溶液としてからカルシウムを加えますと、【κ-カゼイン】以外のカゼイン成分はすべて凝固し、沈殿します。

 【κ-カゼイン】は、カルシウムによって沈殿しないだけでなく、他のカゼイン成分と共存した場合、その成分と結びついてカルシウムによる沈殿の生成を抑え、『脱脂乳』のように白濁状の安定したコロイド粒子を作ります。

 牛乳中では、大部分のカゼインが直径0.05〜0.3ミクロン、平均が約0.1ミクロンの【カゼインミセル】と呼ばれるコロイド粒子を形づくって分散しています。

 この粒子は、小さいものでは数十個の、大きいものでは十数万個のカゼイン分子が集まってできたもので、牛乳1ml中に、5兆〜15兆個の微細粒子として分散しています。

 これが、脂肪球とともに ”牛乳は白い”の要因となっています。

 【カゼインミセル】の固形分中、93%くらいは【カゼイン】そのもので、残りは『無機質』、主に【リン酸カルシウム】から構成されています。

 【カゼインミセル】を顕微鏡で見ると、それぞれの『ミセル』が更に小さな粒子から構成されていることが解ります。これを『サブミセル』と呼んでいます。

 『サブミセル』は種々のカゼイン成分が集まってできたもので、『ミセル』の構成単位になります。この『サブミセル』を構成するカゼイン成分の組成は、一様ではありません。

 【κ-カゼイン】は、主に外側の『サブミセル』に多く含まれています。その結果、【カゼインミセル】の表面に多くの【κ-カゼイン】が局在することになります。【カゼインミセル】が互いにくっつくのを阻止しています。【カゼインミセル】中では、【リン酸カルシウム】がセメントのような働きで、『サブミセル』をつないでいると考えられます。

 チーズ製造に使われている『凝乳酵素剤レンネット』は、【κ-カゼイン】に特異的に作用して、【κ-カゼイン】を【パラκ-カゼイン】と【マクロペプチド】と呼ばれる可溶性ペプチドに分解します。その結果、【カゼインミセル】は【マクロペプチド】を遊離し、『ミセル』表面の【パラκ-カゼイン】はもはや『ミセル』を安定する力を失い【カゼインミセル】がくっつき合って、牛乳は凝固します。


__ホエータンパク質は、酸凝固した【カゼイン】を除いた『ホエー』(【乳清】)の部分に含まれるタンパク質です。

 熱で凝固する性質の【β-ラクトグロブリン】、【α-ラクトアルブミン】、【免疫グロブリン】、【血清アルブミン】と、熱で凝固しない性質の【プロテオース・ペプトン】などから構成されています。

 【カゼイン】中の含硫アミノ酸は、大部分が【メチオニン】ですが、【β-ラクトグロブリン】や、【α-ラクトアルブミン】などの『ホエータンパク質』は、含硫アミノ酸として【メチオニン】のほかに、【シスチン】もかなり含んでいます。これらの『タンパク質』は、加熱すると立体構造が壊れて、変性します。

 牛乳中ではこのように変性しても、【カゼイン】に結合して沈殿の生成が抑えられているのですが、加熱牛乳に酸を加えてpH4.6にすると、【カゼイン】とともに変性した『ホエータンパク質』は沈殿します。

 牛乳に含まれる【免疫グロブリン】は、特に分娩直後の初乳に多く、仔牛はこれを吸収して病気に対する抵抗力を獲得します。


タンパク質の栄養価値は、
それを構成する必須アミノ酸の含量とその比率によって決まります。

             
   乳タンパク質の必須アミノ酸組成
タンパク質100g中のアミノ酸(g)
アミノ酸牛乳・全
タンパク質
人乳・全
タンパク質
RDA
ヒスチジン 3.02.3 17.0
イソロイシン 5.55.0 4.2
ロイシン10.0 9.1 7.0
リジン 8.0 6.7 5.1
メチオニン 2.8 1.4}2.6
シスチン 0.9 1.8
フェニールアラニン   5.3 3.6 }7.3
チロシン 4.4 2.8
スレオニン 4.8 4.2 3.5
トリプトファン1.4 2.2 1.1
バリン 7.2 6.4 4.8
  (P.Walstra & R.Jenness. 1984)
   [RDA]乳児にとっての理想的なアミノ酸パターン
(NRC.NAS.U.S)
__牛乳のタンパク質は、9種類の必須アミノ酸、【イソロイシン】、【ロイシン】、【バリン】、【メチオニン】、【フェニルアラニン】、【スレオニン】、【トリプトファン】、【リジン】、【ヒスチジン】をバランスよくふくんでいます。

 牛乳のタンパク質は、消化が良いだけでなく、必須アミノ酸のもっとも優れた供給源です。米を主食とするわが国の食生活では、【リジン】や【スレオニン】を補う必要があり、食事に『牛乳』をとりいれることにより栄養価を著しく高めることができます。

 【ラクトフェリン】は、最近注目されている機能性タンパク質のひとつで、その抗菌作用、鉄吸収調節作用、免疫機能調節作用などに関心がもたれています。

牛乳の脂質

わが国の牛乳は、約3.5〜4.0%の脂質をふくんでいます。
その脂質の主要成分は【トリグリセライド】で、全脂質中の97〜98%をしめます。

【トリグリセライド】を『脂肪』というので、牛乳は『乳脂質』と『乳脂肪』をほぼ同じ意味でつかうことが多いようです。

『牛乳脂肪』は、その構成脂肪酸の種類が多いという特徴があります。微量なものまで含めると200種以上になると言われます。
     
乳脂質の脂肪酸組成・(%)
牛乳人乳




酪   酸C4:03.6---
カプロン酸C6:02.1---
カプリル酸C8:01.10.1
カプリン酸C10:02.40.8
ラウリン酸C12:02.73.4
ミリスチン酸C14:09.45.3
パルミチン酸C16:025.722.1
ステアリン酸C18:010.16.9





パルミトレイン酸C16:14.53.4
オレイン酸C18:127.935.6
リノール酸C18:213.014.7
リノレン酸C18:32.51.6
  
牛乳の脂質の組成
脂質の種類脂肪酸中%
中性グリセライド 98.700
トリグリセライド 98.300
シグリセライド 00.3 00
モノグリセライド 00.03 0
遊離脂肪酸 00.1 00
リン脂質 00.8 00
レシチン 00.26 0
ケファリン(a) 00.31 0
スフィンゴミェリン 00.16 0
その他のリン脂質(b) 00.06 0
セレブロシド 00.1 00
ガングリオシド 00.01 0
ステロール 00.32 0
コレステロール 00.3 00
コレステロールエステル 00.02 0
カロチノイド+ビタミンA 0.002
P.Walstra & R.Jenness:Dairy Chemistry
& Physics 1984より、一部改変
(a):フォスファチジルエタノールアミン(0.28)
+フォスファチジルセリン(0.03)
(b):フォスファチジルイノシット+プラズマロゲン

__『牛乳脂肪』には、【酪酸】などの低級脂肪酸(炭素数の少ない脂肪酸)が他の油脂に比べて多いのが特徴です。一方、『人乳脂肪』に比べると、【リノール酸】などの【多価不飽和脂肪酸】が少ないのは、栄養的には弱点で、そのため育児用調製粉乳では、植物油などで【多価不飽和脂肪酸】を強化しています。

__『リン脂質』は脂質中約0.8%ですが、ホイップクリームなどの物性に影響するので重視されることがあります。

__【コレステロール】は脂質中0.3%ほど含まれ、この量は牛乳100mlにすると10mg前後ですから、血中コレステロール値にはほとんど影響しません。また、これらは細胞膜に欠かせない成分で、人体にとって重要です。

__『脂肪』は加水分解すると【脂肪酸】と【グリセロール】に分かれ、その【脂肪酸】の種類や量で『脂肪』の性質が左右されます。

 【トリグリセライド】は、【グリセロール】に3個の【脂肪酸】が結合したものですが、その【脂肪酸】の組み合わせによって性質が異なるものが、混じり合って存在しています。

__牛乳と人乳では、その数値に違いがみられます。人乳の場合は、牛乳に比較すると【リノール酸】のような【多価不飽和脂肪酸】が多くなっています。

__ところで、【乳脂肪】の脂肪酸組成は、乳牛の飼料、栄養状態、放牧の有無などの要因によって影響されます。

 日本では夏場は不飽和脂肪酸が多くなるため、『脂肪』の融点が28℃以下になり、冬場は飽和脂肪酸が増えて融点が高くなります。その結果、夏のバターは冬のバターよりも、いくらか軟らかくなります。

__牛乳の『脂肪』は他の油脂に比べ、【酪酸】を含んでいるのが特徴です。生乳の生産段階では取り扱いが悪いと、『脂肪』が分解してその【酪酸】などの低級脂肪酸が遊離し、飲用牛乳に不快臭がつくこともあります。また、不飽和脂肪酸の中で【リノール酸】は、栄養上欠かせない働きを持つのですが、牛乳に少なく、人乳に多いことから育児用調製粉乳には、【リノール酸】を多く含む植物油が特別に添加されています。

__ところで、牛乳中の『脂質』は、直径0.1〜10μ(ミクロン)の脂肪球として、牛乳1ml中に20〜60億個分散しています。これが、 『牛乳が白くみえる』一因になっています。

 脂肪球の内部には【トリグリセライド】が存在し、表面に、リン脂質、コレステロール、脂溶性ビタミン、カロチンなどが存在します。この上部を、タンパク質を主成分とする膜がつつんでいます。

『乳脂肪』は小さな脂肪球として分散しているので表面積が大きく、消化酵素の作用をうけやすく、消化吸収されやすくなっています。

牛乳の糖質

 『牛乳』にふくまれる水分以外の成分でもっとも多いのが『糖質』で、その99.9%が【乳糖】(ラクトース)です。

 『牛乳』中には約4.6%ふくまれていて、重要なエネルギー源となります。

 【乳糖】は、哺乳動物の乳汁以外にはほとんど存在しない特殊な糖質で、【グルコース】と【ガラクトース】からなるニ糖類です。

 【乳糖】の大部分は、小腸上皮細胞に存在する『β-ガラクトシダーゼ』によって【グルコース】と【ガラクトース】に分解され吸収されます。

 【ガラクトース】は、乳児の脳や神経細胞の発達のために必要です。

 【乳糖】のはたらきとして、腸管でのカルシウムや鉄の吸収促進作用、腸内でのビフィズス菌発育促進作用などが知られています。
            
牛乳中の糖質の種類と分布
存在型式 糖質の種類糖質含有
化合物名
存在部位
遊離型
乳 糖脱脂乳
乳清
D-グルコース
D-ガラクトース
N-アセチルグルコサミン
結合型
イノシトールリン脂質、リン酸エステル、糖タンパク質、乳清タンパク質、カゼイン、ヌクレオチド、核酸クリーム
脂肪球膜
脱脂乳
乳清
グルコサミン
ノイラミン酸
D-リボース
D-キシロース
D-グルコース
D-ガラクトース
D-マンノース
L-フコース

 牛乳の糖質の種類は、遊離型と結合型に分けられます。

  遊離型は【乳糖】のほかに、微量のグルコース(ブドウ糖)、ガラクトース(【乳糖】が分解した単糖類)などがあります。

 結合糖質としては、複合脂質、糖タンパク質などの成分として存在し、微量でも重要な働きをしています。

 【乳糖】は、その構造の違いから、α-乳糖とβ-乳糖の二つの異性体があります。

 α-乳糖は、ホエーを濃縮すると水と結合した一水和物となって結晶化します。また、

 β-乳糖は、α-乳糖よりも水に溶けやすく、甘味も強いという特徴があります。しかし、【乳糖】の甘味度は、ほかの糖質に比べてかなり低く、果糖の1/10以下、砂糖の1/6ぐらいにすぎません。

 【乳糖】を水に溶かしたときの特徴として、α-乳糖はβ-乳糖に、β-乳糖はα-乳糖に部分的に変化します。

 変化した【乳糖】が、一定の比率、たとえば20℃でα-乳糖とβ-乳糖の比率が1:1.68になると、平衡状態に達します。この状態の【乳糖】を平衡乳糖と呼んでいます。

 【乳糖】は、牛乳中で最も多い乳固形分として重要なエネルギー源となっています。さらにカルシウムや鉄の吸収を促進する働きもあり、栄養面で大変有利な性質を持っています。

 しかし、人によっては【乳糖】を消化する酵素の【ラクターゼ】が少ないか、欠乏しているかして、【乳糖】が分解されずに腸管に残ることがあります。

 この場合、腸内の浸透圧が高まり、腸壁から水分を侵出させて腸の運動を刺激したり、腸内の細菌が増えてガス発酵を促したりします。その結果、下痢や腹痛を起こしたり、おなかが張ったりゴロゴロ鳴ったりする場合があります。

 このことを乳糖不耐と呼び、アジアやアフリカの人々に多くみられます。

 乳幼児期を過ぎて乳を飲まなくなると、腸内のラクターゼの活性が低くなるのが、その原因です。したがって、離乳以後も牛乳を欠かさずに飲むことが、乳糖不耐を防ぐよい方法と言われます。

牛乳のミネラル

ミネラル、無機質、灰分

『牛乳』の【無機質】の総量は、一定量の牛乳試料を燃やして、あとに残る灰分で表され、0.7%前後です。
  
牛乳の主要無機成分
(牛乳100g中mg)
NaCaMgCl
15152104118633107

 牛乳100g中に10mg以上含まれている量的に多い【無機質】としては、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、リン(P)、硫黄(S)、塩素(Cl)などです。

 『牛乳』は、アルカリ性元素であるK、Na、Ca、Mgを、酸性元素てあるP、S、Clより多くふくむのでアルカリ性食品です。

 牛乳の【無機質】中、最も多いのは、カリウムで、ナトリウム、塩素とともに水に溶けた状態で存在しています。

 これに対して、カルシウムやリンは水に溶けた状態(可溶性)のものと、【カゼイン】や【α-ラクトアルブミン】に結合した状態(コロイド性)のものとがあります。可溶性の形よりもコロイド性のもののほうが多くなっています。

 コロイド性のカルシウムやリンはカゼインミセルの構成分として、細かく分散しているために、吸収率が高いと言われています。また牛乳中の【乳糖】や【カゼイン】からできる【カゼインホスホぺプチド】は腸管からのカルシウムの吸収を促進します。

 『牛乳』に含まれる微量の【無機質】には、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、沃素(I)などがあります。

 栄養学的な面では、『牛乳』に豊富に含まれ、しかも吸収されやすい形の カルシウムやリンは、骨や歯の形成に重要です。そればかりでなく、『牛乳』100gあたり100mg含まれているカルシウムは、筋肉の収縮や神経の伝達など、生理的な働きにも関係があります。 またリンは、体液の代謝に関係しています。

 カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウムは体液の構成分として重要ですし、鉄、銅、沃素、硫黄などは血色素、酵素、ビタミンなどの構成分として重要です。しかし、どちらかというと、鉄は牛乳中に多くは含まれていません。そのため、乳幼児期には別の形で、鉄を補給する必要があります。


 第六次改定【日本人の栄養所要量(平成12年4月施行)】では、ミネラル(無機質)の13種類が策定されました。

 これらのミネラルは、人体の構成率が約4%と少ないのですが、三大栄養素(たんぱく質、脂質、糖質)を車におけるガソリンに例えると、ミネラルやビタミンは、オイルや潤滑油の役割を担っていると言えます。車にオイルや潤滑油が必要なように、人体にとってミネラルは三大栄養素とともに大切なものです。

 ミネラルは、個々の働きがあると同時に、それぞれが関連して生体内で働くことも分かってきていて、毎日の食事でバランスの良い摂取を心掛けたいものです。

 牛乳には、多くのミネラル成分が含まれていて、生体内で様々な働きをしていることが、化学や医学の進歩で解明されつつあります。しかし、第六次改定【日本人の栄養所要量】では、ミネラルの中でカリウムを除く全ての成分に『許容上限摂取量』が設定されました。この『許容上限摂取量』は、1日だけ摂取超過したからといって、直ちに体に異常が現れるものではありませんが、ある程度の期間、続けて摂取超過すると、生体内の生命活動にマイナスの傾向がでる可能性が高いので、注意を喚起したものと言えます。

 摂取不足が続いても、逆に摂取超過が続いても問題と言えるわけで、朝・昼・夕食の3食を、きちんと食べること、そして好き嫌いなく、いろいろな食品を食べることが、摂取過剰や摂取不足のあまりない、食生活上、栄養的にバランスのとれたものになることを、もう一度、みんなで考え直す時期と言えるのではないでしょうか。

 牛乳・乳製品は、カルシウム摂取源というだけでなく、栄養的にバランスをとる意味で日本人の基礎的な食品であることを見直していただきたいと思います。

牛乳のビタミン

牛乳は、今までに知られているすべての【ビタミン】をふくみ、
【ビタミン】の供給源としてきわめて重要です。

牛乳中のビタミン含量とその必要量
ビタミン 含量(mg/l) 必要日量(mg)
脂溶性ビタミン
ビタミン A(レチノール) 0.2〜20.3〜0.6
ビタミン D(カルシフェロール) 0.0020.0025〜0.01
ビタミン E(トコフェロール) 0.63〜10
ビタミン K 0.022〜3
水溶性ビタミン
ビタミン B1(チアミン、アノイリン) 0.40.2〜1.1
ビタミン B2(リボフラビン) 1〜2.50.3〜1.5
ビタミン B6(ピリドキシン) 1〜31.4〜2
ビタミン B12(シアノコバラミン) 0.002〜0.010.0015〜0.005
ニコチン酸(ナイアシン) 0.5〜44〜18
パントテン酸 2.8〜4.52〜7
ビタミン H(ビオチン) 0.03〜0.050.035〜2
葉 酸 0.01〜0.120.2
ビタミン B13(オロット酸) 64〜80---
コ リ ン 40〜150---
ビタミン C(アスコルビン酸) 5〜2840〜50
日本人の栄養所要量による。
日本人の所要量が決められていないものは、
米国RDAによった。

 『ビタミン』には、【脂溶性ビタミン】、【水溶性ビタミン】があります。

 【脂溶性ビタミン】には、 Aとその前駆体およびD、E、Kがあり、『乳脂質』に溶けた形で存在します。牛乳100g中にレチノール30μg、β-カロチン12μgをふくみ、A効力として120IUをしめします。 A効力は弱い黄色色素のカロチンや、クリプトキサンチンも含まれ、これらはプロビタミンAと呼びます。
___ビタミンDは、牛乳にはあまり多く含まれませんが、このビタミンはカルシウムの吸収を促進する効用があります。
___ビタミンEは、脂質の酸化を抑制する作用を持ち、
___ビタミンKは、出血を抑える機能を持っています。

 これらの【脂溶性ビタミン】のうち、ビタミンAやビタミンDは熱に対しては、かなり安定していますが、ビタミンAは日光によって壊されます。

 【水溶性ビタミン】は、B群ビタミンとビタミンCに大別されます。
___ビタミンB1は、糖質代謝に必要で、多発性神経炎や脚気の防止に効果があります。牛乳100ml中に0.04mg存在していますが、加熱や濃縮などの処理中に一部破壊され、0.03mgになります。
___ビタミンB2は、成長を促進し、口角炎などを防ぐ効果があります。牛乳中に際立って多く存在するビタミンで、その給源として数ある食品の中で、牛乳が重要視されています。遊離型のほかに、生体の代謝に必要な補酵素となったエステル型のものがあります。

 その他、ビタミンB6、パントテン酸、オロット酸なども、牛乳中に比較的多いビタミンとして知られています。

 ビタミンCは、牛乳100ml中に1〜2mg存在しますが、加熱や日光で破壊されやすい性質があり、牛乳は、ビタミンC源としては期待できません。日光による水溶性ビタミンの破壊は、ビタミンB2でも起きやすいといわれています。


【ビタミン】の働き
___人間の体には約60兆個もの細胞があり、心臓や骨、脳、皮膚、血液などのいろいろな組織を作り、体温の維持、活動エネルギーの産生や細胞の合成・分解など、さまざまな生命活動が行われています。三大栄養素とミネラルは、この生命活動の主な材料となる栄養素とも言えます。
___ビタミンの働きは、材料となる栄養素を化学反応させるために、欠かせない触媒のような役割を持っています。量的に少ないものですが、ビタミンは、単独の働きのほか、他の栄養素と関連して生命維持に深く関わっています。
___ビタミンの多くは体内で合成されず、食事から摂取しなければなりません。ビタミンが不足すると体内の化学反応が順調に行われなくなるため、体の調子が悪くなったり、病気になったり、成長期には十分な成長ができなくなったりするのです。

牛乳のその他の成分

 牛乳中に存在する、その他の成分には、酵素、非たん白態窒素成分、有機酸類、各種風味成分、ガス体などがあります。

 酵素は、市販の加熱処理牛乳では破壊されるため、ほとんど存在しない成分です。

 しかし、生乳には存在していて、脂肪を分解するリパーゼ、たん白質を分解するプロテアーゼ、有機リン酸結合を切断するホスファターゼなどの加水分解酵素や、キサンチンを酸化するキサンチンオキシダーゼ、過酸化水素を分解するパーオキシダーゼカタラーゼのような、酸化還元酵素が主なものです。

 これらのうち、リパーゼは脂肪分解臭を、キサンチンオキシダーゼは酸化臭を牛乳に与え、その風味を悪くします。

 カタラーゼは、乳房炎の乳牛から搾った乳に多いため、その目安となります。

 非たん白態窒素成分は、牛乳の全窒素成分の5〜6%量であり、尿素、遊離アミノ酸、クレアチン、クレアチニン、尿酸、馬尿酸がその主たるものです。

 有機酸類ではクエン酸が多く、その無含量は0.2%前後です。クエン酸は遊離の形で存在するほか、クエン酸カルシウムの形でカゼインミセルを構成し、牛乳の熱安定性やレンネット凝固に関係します。また、発酵乳や発酵バターの芳香成分は、乳酸菌によってクエン酸が分解したときに生じます。

 牛乳の有機酸には、そのほか微量の乳酸、ピルビン酸、低級脂肪酸があります。

 新鮮牛乳の風味として重要な香気は、硫化メチル、アセトアルデヒド、アセトンが主成分といわれます。好ましい味を感じさせるものは、乳糖と乳脂肪による温和な甘味、たん白質の微細分散による口当たりとコクなどです。

 しかし、乳牛の飼養管理、牛乳の取り扱いの不備などによって、牛乳に飼料臭、酸化臭、脂肪分解臭、酸臭味、不潔臭、苦味などが生じることもあるので、生産の場で注意が払われます。

 牛乳に溶在するガス体は、炭酸ガスや空気ですが炭酸ガスは、牛乳100ml中に7ml含まれています。

カルシウムの働き

・カルシウム摂取は不足状態
・骨はカルシウムの貯蔵庫
・骨は毎日、少しづつ作り変わる?
・歯とカルシウム食品の摂り方
・カルシウムの神秘な働き




カルシウム摂取は不足状態

人体の構成元素には、有機質の炭素、水素、酸素、窒素に次いで、無機質のカルシウムがあり、人体の1.5〜2.0%を占め、体重60kgの人で約1kgになります。

人体のカルシウムの約99%は、リン酸塩や炭酸塩として骨や歯に含まれ、残りの約1%は筋肉や神経・血液などに含まれていて、生体及び細胞の機能に不可欠なミネラルです。

その働きについては、不足すると【骨粗しょう症】になる程度の認識の方が多く、日本人の場合、国民栄養調査の数値は、不足状態が現状でも続いている唯一の栄養素で、その所要量は、世界各国の中でも最低水準と言われています。

昭和39年の『学校給食用牛乳供給事業の実施について』文部・農林両事務次官通達によって牛乳飲用が促進され、牛乳類の消費量が大きく伸び、カルシウムの摂取量も増えてきましたが、昭和45年頃から伸び率が鈍化して1日600mgの成人女性所要量に、未だに達していません。

 児童・生徒についても、最近の日本体育・学校健康センターの調査では、成長期の大切な時期にしては、十分な摂取状況とはいえず、特に給食のない日には、調査対象となった小学5年生の男女、中学2年生の男女とも、大幅なカルシウム摂取不足となっていて、学校教育現場や児童・生徒を持つ家庭に対し、改善の啓発が大切と考えられます。

骨はカルシウムの貯蔵庫

人間の骨量は、体の成長とともに増加し、思春期に急成長して、女性では18歳頃、男性では20歳位にピーク(ピーク・ボーン・マス{最大骨量})を迎えると言われています。個人によって差があることや、大人で206本ある骨の部位によっても差があるのは当然です。

大昔、地球上の生命は海の中で誕生し、やがて一部の生命体が陸上で生活するために進化した有名な話があります。それは、陸上でカルシウム摂取が不足した時でも生命維持できるように、カルシウムを体(骨)に貯えるメカニズムを進化の過程で得られたため、海から陸上に一部の生命体が移動できたと言うことです。

このカルシウム摂取が不足した時に、骨から取り出して補うメカニズムは、私達、人間の体にも生きています。具体的には血液のカルシウム濃度が一定に保たれるシステムで、カルシウム摂取が多い時には貯骨して、不足すると骨から溶け出させて体内に運ぶことになります。したがって、成長期に必要なカルシウム摂取が出来ないと、ピーク・ボーン・マス{最大骨量}が十分に上がらない状態となって、加齢による骨量の減少から、【骨粗しょう症】になる危険が早くなってしまいます。

最近では20歳前後の若い(特に女性)の中にも骨量が少なく、既に50〜60歳程度の骨量しかない人が、骨密度測定の結果、一部ですが見られる状況です。

骨は毎日、少しづつ作り変わる?

人体の骨は、カルシウムだけでなく、たんぱく質、リン、マグネシウムなどで構成され、特に骨中のカルシウムは、人体を支える強靱性を骨に与えるうえで重要な働きをしています。また、脳や内臓などを衝撃から守る役割やカルシウムの貯蔵庫という役割もあり、それぞれ体にとって重要な働きをしています。

この骨は、20歳を過ぎても生きている間は、毎日、少しづつ【破骨細胞】によって壊され、【骨芽細胞】によって新しく作り変えられています。事実、骨折しても骨がくっついて元に戻ることからも分かります。しかし、骨が正常に生まれ変わるには、幾つかの条件が必要のようです。その主要な内容と理由を考えてみましょう。

【1】カルシウムを毎日、必ずいろいろな食品から摂ることが第一です。最近の食生活では、骨ごと食べる小魚や海藻の摂取が少なくなったため、牛乳・乳製品を除くと成人でもカルシウムの摂取量が300mg〜400mg程度の方も少なくないようです。牛乳・乳製品を毎日200ml〜400ml摂取すれば、所要量をほぼ満たすことができます。

【2】ビタミンDの多くは、日光にあたることで、紫外線によって皮膚で合成され、体内のカルシウムの再利用促進やカルシウムの吸収率を上げる作用があります(近年は紫外線が強くなってきたので、長時間、日光にあたり過ぎるのは注意が必要と言われています。)。

【3】適度な運動で、骨に刺激を与えると、カルシウムが骨に吸収されやすくなります。また、骨の強さは、骨の回りの筋肉が補強してくれることもあるため、適度な運動による筋肉の量や強さを増すことも必要です。さらに運動能力の向上によって、転ぶ確立が減り、転倒による骨折率の低下も期待できます。

【4】カルシウム吸収阻害要因を、極力少なくすること。例えばリンとカルシウムの摂取比率の理想は1対1と言われ、その点て゜牛乳は、ほぼ理想ですが、加工食品の利用増大などでリンの比率が増加傾向にあります。

 リンが多すぎると、カルシウムを体外に排泄してしまいます。シュウ酸、フィチン酸、食物繊維、ナトリウムなどの過剰摂取や、カルシウムの吸収促進作用をもつリジンの摂取不足は悪影響につながります。

【5】カルシウムは消化吸収されにくい栄養素で、平均的吸収率で牛乳40%、小魚33%、野菜19%と言われています。牛乳にはカルシウムの一部がそのまま吸収されるイオン状態で含まれていること、CPP(カゼイン・ホスホ・ペプチド)や乳糖が吸収率を上げると言われています。また牛乳は、他の食品のカルシウムを一緒に食べることで吸収率を上げると考えられています。

カルシウムを食品から充分摂る、日光に適度にあたる、そして適度な運動をしてカルシウムの吸収率を上げ、十分な睡眠をとることで、成長期だけでなく、大人になっても強固な骨を維持することができます。

歯とカルシウム食品の摂り方

乳歯は生後5〜6カ月で生えはじめ、2年半位で上下10本ずつ、合計20本が生え揃うと言われています。最初に生える永久歯は第1大臼歯(きゅうし・奥から3本目)が6〜7歳前後で、親知らずを除き12〜13歳前後までに上下26本が生え揃うと言われています。

この永久歯は、歯が欠けると元にもどりませんので、口の中で見える歯の一部分は生まれ変わっていますが、全体としては生まれ変われないことになります。

5歳の乳歯では、主原因が親の目の届かない間食で、『むし歯』が90%にも急増してる事実が最近の傾向と言われています。

 乳歯の時にむし歯が多いと生活習慣が変わらない限り、引き続いて生える永久歯もむし歯になりやすく、その結果、食物の咀嚼(そしゃく)回数の減少によつて、脳の働きの低下、顎や顔の成長阻害、心身の正常な発育まで影響を及ぼすとまで考えられています。

永久歯を支える歯周組織の歯槽骨などの骨は生まれ変わっているので、骨と同様にカルシウムなどを十分に摂ることが、特に幼児期から20歳位までは大切と言えます。

ところで、カルシウムを多く含む食品は、牛乳・乳製品、干しエビ、丸干し(うるめイワシ)などの骨や殻も一緒に食べられる小魚類、ひじき等の海藻(草)類、小松菜・かぷの葉・大根の葉・つるむらさき等の緑黄色野菜、それに大豆等を含む大豆製品やごま等があげられます。

日本の場合、火山灰土のため、もともと土壌にカルシウムが少なく、そこに育つ野菜などや水などにもカルシウムが少ないので、カルシウムを十分に摂るにはそれぞれが工夫して、どのよえな食品から毎日摂取するか、他の国より努力が必要と言われています。

 そのためのポイントは、カルシウムを多く含む食品だけに偏らずに、いろいろな食品からの摂取を心掛けることです。また、吸収率の高い牛乳・乳製品を料理に上手に使うことで、他の食品のカルシウム吸収率を上げることもできます。

カルシウムの神秘な働き

人間の体内のカルシウムのうち、約99%が存在する骨や歯でのカルシウムの主な働きについて見てきましたが、この項では残りの1%の、体内での主要な働きを見てみましょう。

第1に、体内での血液中のカルシウム濃度は、副甲状腺ホルモンをはじめとした、カルシウム濃度調節ホルモンによって厳格に管理され、毎日のカルシウム摂取量が不足すると、骨からカルシウムを取り出して、カルシウムの必要な組織・細胞に運ぶことになります。 骨の断面

 このため、カルシウム摂取の不足状態が続くと、骨の組織が大根に鬆(す)が入ったようになることで骨折を起こして、寝たきりになる、いわゆる【骨粗鬆(しょう)症】になりやすくなります。当然成長期では、骨や歯が充分に発育できない状況が生まれます。体という字は、以前、『體』と書いたことからもうなずけることで、カルシウムをきちんと摂って骨が豊かな健康美を目指したいものです。

第2は、カルシウムには筋肉の収縮に欠かせない働きがあり、特に心臓の筋肉細胞は、カルシウムが少なくなり過ぎると、動かなくなることが分かっています。生命の死に関係する生命体の基本的な働きにカルシウムが深く関わっているのです。また、他組織の筋肉の収縮にも同様な関わりを持っているので、運動選手などは、普通の人よりカルシウムを多く摂る必要があるといえます。

第3は、神経細胞の働きに関与しているとされ、脳から人間の動作について指令が出され、私達は体を動かすことができます、この神経伝達がスムーズにいくことにカルシウムが関わっています。 イライラ

 また、カルシウムには神経の興奮を静める作用もあると言われ、カルシウム摂取不足の人は、イライラしやすかったり、神経が過敏になることが知られています。

第4は、体外や体内で出血した血液の凝固に関与したり、細胞の分裂・増殖・分化の関与、内分泌(各種ホルモン)や外分泌(唾液・胃液・膵液など)に関与するなど、人間のあらゆる生命体の活動に関わる栄養素と言われています。

第5は、カルシウム摂取不足が続くと、骨からカルシウムが取り出されますが、この取り出されたカルシウムが血管壁などの軟部組織に沈着することにより、細胞内のカルシウム濃度が増加し、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の原因となり、細胞の機能が一般に低下して老化現象を招くことも、段々と分かってきています。

健康で長く活力ある人生を送るためには、小魚・野菜・大豆・海藻などでも不足しがちなカルシウムを上手に摂りたいものです。

 なお、食品以外のカルシウム錠剤などは、服用しすぎると許容上限摂取量を上回る可能性もありますので、食品以外からの摂取は専門家の指導を受ける等の注意が大切と言われています。

カリウムの働き

カリウムはナトリウムと対抗して働きます。人間の細胞内にはそれぞれカリウムが多く、細胞外にはナトリウムが多く、イオン状態で存在しています。ナトリウムが多かったりカリウムが不足すると血圧が上がるようなメカニズムが働きます。
___この作用は主に、腎臓におけるナトリウムの排泄を促進するためと言われています。

また、カリウムには、筋肉の収縮に関係する酵素の活性を調節して、末梢血管を拡張して血圧を下げる作用にも関係していて、他にも神経信号の伝達や細胞内のpHの維持、酵素反応の調節などに関わっていることが明らかになってきています。

カリウムは、牛乳・乳製品以外にも、魚介類、野菜類、果物、味噌、醤油など、幅広く含まれているので、通常の食生活では不足しない栄養素でしょう。
___しかし、ナトリウムの摂取が多いと、余分なナトリウムを体外に排泄することになりますが、この時にカリウムも体外に排泄されることになるので、カリウム不足になると体内の働きが弱くなってしまいます。

リンの働き

リンは体重の1%を占め、ミネラルではカルシウムに次いで量の多い栄養素です。リンの約85%は骨にリン酸カルシウムとして存在しています。残りは、筋肉、肝臓、歯、血液や細胞の間の間質液などに存在していると言われています。

リンは、カルシウムとの摂取比率が1対1であることが理想と言われ、牛乳は、ほぼ理想の比率になっています。しかし、実際の摂取量が多いことから、所要量はカルシウムより若干多く設定されています。

近年、各種リン酸塩は、加工食品の食品添加物として広く利用されているため、リンの過剰摂取が問題となるほどで、リンの摂取不足は、ほとんどないと言われています。

リンの体内での働きは、骨や歯をつくる主な原料となるほかに、体内のほとんどの細胞に含まれていて、さまざまな生命活動に関与したり、細胞膜や遺伝をつかさどる核酸を構成して、細胞の成長と分化や筋肉・神経の機能を正常に保つなど、人間にとってカルシウムと同様に欠かせないミネラルと言えます。

リンの場合は、過剰摂取の方が問題と言われ、リンの過剰摂取が長期間続くと、腎臓の機能低下や副甲状腺ホルモンの働きも低下すると言われているほか、摂取したカルシウムが体内で利用されず、リンとともに体外に排泄されることもあるので、注意が必要でしょう。

マグネシウムの働き

マグネシウムは、骨に約60%含まれていて、カルシウムと同様に骨に貯蔵され、不足すると骨からマグネシウムが取り出される体内のメカニズムになっています。体内では骨の次に筋肉などの細胞組織に多いと言われ、血液には1%位含まれていると言われています。

マグネシウムの体内での働きは、骨の構成成分になるほか、生体内の生命活動のうち、体の中のたんぱく質合成の調節やエネルギーを体内で作る作用に関係するとともに、生体内の多くの酵素の働きに関与していると言われています。

また、体温や血圧の調節、筋肉の収縮、神経の興奮などの生理的機能にも関与しているマグネシウムは、生命体の維持に欠かせないミネラルと言えます。

酵素の働きのひとつは、ナトリウムとカリウムの量を調節したり、細胞内のカルシウムイオンが多くならないように作用する機能もあるようです。細胞内のナトリウムイオンと同様に、カルシウムイオンも多すぎると、高血圧につながることも分かってきています。

ビタミンB2の働き

 ビタミンB2は、別名、【成長ビタミン】と呼ばれ、小学生の1日当たりの所要量に対し、牛乳200mlで約30%も補うことができます。

 成長以外には、舌・唇・皮膚や眼などに関係したり、運動能力を高めることが知られています。また、不足すると脂漏性皮膚炎や口角炎、眼性疲労などの症状に関係するとも言われ、最近では、別名、【美容ビタミン】と呼ばれることもあり、成長期や若い人、女性にとっては特に摂取に気をつけたいビタミンといえるでしょう。

ビタミンB12の働き

 ビタミンB12は、1929年に悪性貧血患者に、牛乳と健康な人の胃液を与えると治りがよいことから、その働きが明らかになったビタミンです。このことからも分かるように、成長期では1日当たりの所要量に対し、25%〜50%近くも牛乳200mlで補えるほど多く含まれています。

 B12は、緑黄色野菜などに多く含まれる葉酸と協力して、赤血球のヘモグロビンの合成を促進したり、DNA(遺伝子)の主成分の核酸の合成に関与していることが知られています。

 ビタミンB12の不足は、赤血球の生産異常などを起こすことにつながり、赤血球のヘモグロビンが体内全体に酸素を運んでいますので、体内のエネルギー生産が十分にできなくなることの原因になります。
___またB12は、神経と関係が深いと言われ、末梢神経の修復や中枢神経の脳にも関係することが知られていて、記憶力や精神のバランスにも関与すると考えられています。

 ビタミンB12はB2と同様、成長期には特に摂取に気をつけたいビタミンと言えるでしょう。

 なお、ビタミンB12は、厳格なベジタリアンでない限り、欠乏は起こりにくいと言われています。

パントテン酸の働き

 パントテン酸は、『広くどこにでもある』と言う意味のギリシャ語から命名され、通常では不足することは少ないと言われています。

 牛乳にも多く含まれるビタミンで、その働きは三大栄養素のエネルギー産生に関与しているほか、副甲状腺ホルモンの合成に関与して、ストレスへの抵抗力をつけるために働くことでよく知られているビタミンです。

 特に日本人のエネルギーは、半分以上が穀類などを中心とした糖質であり、糖質のエネルギー産生には、ビタミンB1が補酵素として主に働きますが、この働きにパントテン酸が深く係わっているのです。
___その他にも善玉のHDLコレステロールを増やす働きや免疫抗体の産生・自律神経伝達物質(アセチルコリン)の産生などの働きも分かってきています。

 大人だけでなく、成長期の子どもたちもストレスの多い生活環境にあり、パントテン酸が多く必要になる現状です。

 また糖質は体全体の主要なエネルギー源ですが、脳の働きに唯一のエネルギーとなるため、ビタミンB1とともにパントテン酸は、成長期には欠かせないビタミンと言えるでしょう。

ビタミンB1の働き

 ビタミンB1は、牛乳には所要量の10%程度含まれていて、穀類や野菜、魚、肉類など、多くの食品に含まれています。ただ、米では玄米を100とすると、精白米では19と少なく、最近では嗜好飲料を多く摂り過ぎる傾向があることもあり、成長期の子どもや若い人達にビタミンB1不足がみられると言われています。

 ビタミンB1の働きは、糖質がブドウ糖(グルコース)として吸収されたあと、アポ酵素(たんぱく質から合成)が働いてエネルギーを産生しますが、この時ビタミンB1やパントテン酸が補酵素として働きます。

 B1が不足すると、疲れやすく、食欲が減退したり、成長や神経の働きなどに関係すると言われています。

ビタミンC・食物繊維・鉄の働き

 残念ながら牛乳には、ビタミンCと食物繊維、それにミネラルの鉄・銅の含有量の割合が少なくなっています。

 ビタミンCには、コラーゲン(たんぱく質から作られ、骨を含めた細胞と細胞の結合組織の主成分)の生成促進やアミノ酸・副腎皮質ホルモンの生成や鉄・銅の吸収やヘモグロビンの合成を促進する働きがあります。

 また、ビタミンAやEとともに活性酸素(体を酸化させ老化などを早めるなど)の抗酸化ビタミンの働きとともに、免疫力を高める働きや、しみのもとになるメラニン色素の生成を抑える働きなどが知られ、生体に欠かせないビタミンと言われています。

 鉄や銅は、赤血球のヘモグロビンの合成に深く関与し、鉄は赤血球のヘモグロビンの構成物質として、血液で体中に酸素を運搬したり、筋肉中ではミオグロビンの成分として、血液より筋肉に酸素を取り入れる役割が知られています。

 また、鉄は体内でたんぱく質と結合して、肝臓、脾臓、骨髄に貯蔵鉄の形で20〜30%が貯蔵され、血液中に鉄分が不足すると、へム鉄の形で血液に補充される仕組みになっています。

水溶性ビタミンの働き

 体内の約60兆個の多くの細胞は、エネルギーの自己発電機能を持っていて、糖質のブドウ糖、脂質の脂肪酸、たんぱく質のアミノ酸の3つを発電用の原料にしています。

 この発電用の原料からエネルギーを生み出すのに、いろいろな酵素がかかわり、酵素の働きを促進する補酵素の役割を持つのは、水溶性ビタミンのB群(B1、B2、ナイアシン、B6、パントテン酸、ビオチン、葉酸、B12)の8種類です。これらB群のビタミンは、お互いに関連しながら体内で働いていると考えられます。

 また、これらB群のビタミンは、水溶性のため、摂り過ぎても尿中に排泄されます。

 水溶性ビタミンでは、1日の所要量に対し、牛乳200ml当たりの含有量の割合が、エネルギーと同等程度含まれるビタミンとして、ビタミンB6(アミノ酸の合成・分解の補酵素、成長、皮膚、歯、髪に関与、神経細胞の興奮抑制に関与などの働き)、葉酸(赤血球や細胞分裂・発育に関与、脳や神経伝達物質に関与など)があります。

 また、含有量の割合が少ないものに、ナイアシン(糖質・脂質・たんぱく質のエネルギー産生に関与、ホルモンの合成に関与、脳神経やペラグラの皮膚炎、下痢などに関与)がありますが、いろいろな食品に含まれるため、摂取不足の心配はほとんどないと言われています。

ビタミンAの働き

 ビタミンAは、小学生の1日当たり所要量に対し、牛乳200mlで約20%前後も補給できます。牛乳のビタミンAはレチノールとして多く含まれ、そのままビタミンAの働きをします。

 緑黄色野菜に多く含まれるカロチン(主にβカロチン)は、吸収率が低いためカロチン6に対しレチノール1として計算され、全体ではレチノール当量として表示されます。ただし、緑黄色野菜のカロチンは、例えばホウレン草をバター炒めすると吸収率が上がると言われています。

 ビタミンAの働きは、視力を正常に保つ働きがあり、薄暗い場所でも目が慣れるのは、光の明暗を感じとるロドプシンという物質があるためと言われ、その物質の主成分がビタミンAだと分かりました。

 また、ビタミンAは成長促進や生殖・免疫機能の維持、皮膚や上皮組織(口・鼻・喉・肺・胃・腸)の粘膜を正常に保つため、病原菌ななどが体内に入るのを防ぐ働きがあることや、皮膚がかさつく乾燥肌の人にもよいことが知られています。

 緑黄色野菜に多く含まれるカロチノイドには、βカロチン、αカロチン、ルチン、トマトのリコピンなどが知られ、最近では、ガンの予防効果や活性酸素の害を防ぐ抗酸化作用が分かってきたと言われています。

ビタミンKの働き

 近年、ビタミンKにはカルシウムが骨に沈着する作用を持つ、たんぱく質のオステオカルシンの合成に欠かせないビタミンであることが分かってきました。

 また、ビタミンKは血液の凝固を助けたり、抑制したり、バランスを取る作用が知られています。

 このビタミンKも、牛乳には、エネルギー含有比率より多く含まれているビタミンの1つです。

ビタミンEの働き

 ビタミンEは、体の細胞膜に含まれ、細胞膜が活性酸素で酸化されるのを防ぐことで知られていて、抗酸化ビタミンの代表格で老化防止ビタミンと呼ばれることもあります。

 ビタミンEはトコフェノールと呼ばれる物質の総称で、体の脂肪組織、副腎、肝臓、心筋などの多くの組織に蓄えられています。

 ビタミンEは、マーガリンを含む植物性油脂や小麦胚芽、アーモンド、ひまわりの種や落花生、アンコウの肝、サケのすじこ、生のたらこなどに多く含まれていて、特に現状では摂取不足の指摘がない状態です。

 ビタミンEの働きには、ビタミンCの代謝に関係するほか、ビタミンAなど、ほかの抗酸化物質の酸化防止にも関係していることが知られています。

水分の必要性

 五訂日本食品標準成分表によると、普通牛乳・種類別【牛乳】は、乳脂肪を含む乳固形分は標準で12.6%、残りは水分で87.4%あります。

 人間の体は水分が一番多く、50〜60%程度を占め、年齢が若いほど多いようです。万一の場合、食事が摂れなくても水があれば、自然条件にもよりますが、数日から一週間位、生きることができると言われています。

 通常、成人の場合、食事から摂る量も含めて、1日2.5〜3リットル程度必要と言われ、牛乳は水分の主要な補給源でもあります。

ビタミンDの働き

 ビタミンDは、骨の生成に欠かせないビタミンですが、他のビタミンと違い体内ではホルモンとして働くことが知られています。また、ビタミンD欠乏症は、ほとんど認められていないのが現状です。

 ビタミンDの多くは、皮膚にビタミンDの元になるプロビタミンD3があって、日光の紫外線に当たることで、ビタミンDに変化して体内で活用されることが知られています。

 最近は紫外線の量が多くなったと言われていて、特に夏、長時間日光に当たらない工夫がもとめられているので、注意が必要でしょう。

 ビタミンDは30分程度の日光浴でも十分に皮膚で生成されると言われていて、木陰などでも生成されるので、夏の日中での運動などは、極力控えることも大切と言えます。

牛乳に関係する他のビタミン様物質の働き

 キャベジンと呼ばれたり、ビタミンUと呼ばれる物質は、不足すると胃が弱ったり、胃や十二指腸潰瘍になりやすいと言われ、野菜や牛乳にも比較的多く含まれていると言われています。

 PABA(バラアミノ安息香酸)は、ビタミンB群の仲間で、体内で葉酸が合成される時に欠かせない物質です。皮膚を紫外線から守ったり、赤血球の産生に関与するなどの働きがあるとされ、レバーや無精製の穀類、牛乳などに含まれていると言われます。