「病気にならない生き方」の著者、新谷弘実氏に公開質問状

日本酪農乳業協会(Jミルク)は2007年3月27日、「病気にならない生き方」(サンマーク出版)の著者、新谷弘実氏の東京都内事務所に公開質問状を送付したことを発表した。この公開質問状は28日付で、Jミルクと医師や栄養学の専門家らでつくる牛乳乳製品健康科学会議の連名になっており、4月30日までに回答するよう求めている。これには、Jミルクが昨年10月に設置した同会議の折茂肇会長(健康科学大学学長)が自ら署名している。質問状の内容は「病気にならない生き方」の牛乳乳製品に関する記述の中から8項目にしぼって、Jミルクとしての見解を申し述べた上で、新谷氏の見解についての科学的根拠を直接問い質すものとなっている。その後の対応は新谷氏の回答を見た上で決定するとしている。

3月27日の記者会見で、公開質問状を送付したことに関連して本田浩次Jミルク会長は次のように語っている。

「これまで非科学的な批判に対しては、基本的には放っておくことにしていたが、牛乳を飲まない人の割合が増えたという調査結果が出たり、この本がきっかけになって宅配が止められたりした例も報告されている。我々が静観していたところ、この本の続編が出版されて、ベストセラーになっているようなので、今回、このような対応をすることになった」

●プレスリリース

●質問状

拝啓

初春の候、新谷先生には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
突然お手紙を差し上げましたが、私ども「牛乳乳製品健康科学会議」は、新谷先生がご著書「病気にならない生き方」に記され、また種々の講演会などで述べられているお考えに対して、その科学的根拠等に大きな疑問を持っております。
私どもとしましては、医学・栄養学・食品科学等の立場から、健康的な生活に役立つ正しい情報を提供する必要があると考えております。そのため以下の8項目に関して私どもの見解を申し述べさせていただきますので、折り返し新谷先生のご見解をお知らせいただきたいと思います。

1.新谷先生はご著書「病気にならない生き方」 105ページで『市販の牛乳は「錆びた脂」ともいえる。』、 106ページで『ホモゲナイズすることにより、生乳に含まれていた乳脂肪は酸素と結びつき、「過酸化脂質」に変化してしまいます。』、 108ページで『超高温にされることによって、過酸化脂質の量はさらに増加します。』と述べておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
牛乳をホモゲナイズおよび殺菌しても乳脂肪が酸化されることは殆どありません。
乳脂肪は他の一般的な大豆油やコーン油などより多価不飽和脂肪酸が十分の一以下と少なく[注1]、もともと酸化されにくい脂肪です。 
また、乳脂肪は牛乳中では脂肪球として存在し、ホモゲナイズすることにより脂肪球は小さくなり、その合計の表面積は増えますが、乳たんぱく質(カゼインやホエイたんぱく質)で被覆され[注2]、酸化されにくい形態となっています。
さらに、通常のホモゲナイズや殺菌は、外気と直接触れない工程で行われております[注3]ので、酸化に必要な酸素が牛乳に溶け込むのは難しく、脂肪が酸化する可能性は極めて低い状態にあります。
実際、同じ工場の「原料乳」と「ホモゲナイズおよび殺菌したパック入り牛乳」の酸化指標(過酸化物価)を測定した結果では全く差がなく、酸化は認められませんでした。

[注1]文部科学省「五訂増補日本食品標準成分表」
[注2]林弘通・福島正義「乳業工業1998年」(幸書房)36ページ
[注3]林弘通・福島正義「乳業工業1998年」(幸書房)23ページ
[注4]財団法人日本食品分析センター2006年分析結果

2.ご著書73ページで『カルシウムをとるために飲んだ牛乳のカルシウムは、かえって体内のカルシウム量を減らしてしまう』と述べられておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
牛乳を飲むことで体内のカルシウムが減ることはありません。
体内のカルシウムは99%以上が骨と歯にあり、その他は血液や組織の中にあります。骨と血液中のカルシウムは、ホルモンやビタミン(カルシトニン・副甲状腺ホルモン・活性型ビタミンD)の働きで常に交換されており、血液中の濃度は約10mg/dlに保たれています。[注5]
飲んだ牛乳のカルシウムのうち、吸収されたものは、からだの血液や組織(大部分は骨、その他は血液・筋肉)に入り、蓄えられます。組織中のカルシウムは体内各組織間でバランスが保たれており、不要な部分は排泄されます。
カルシウムはもともと消化吸収率の低い栄養素ですが、牛乳のカルシウム吸収率は高く、日本人の若年女性を対象としたカルシウムの吸収率に関する試験によると、牛乳は40%、小魚は33%、野菜は19%と牛乳の吸収率が優れており、また蓄積率も牛乳の方が高いと報告されています。[注6] 多くの日本人はカルシウムの摂取量が、厚生労働省食事摂取基準の目安量に対して不足しており、牛乳は最も有効な食品と言えます。

[注5]鈴木継美・和田攻編「ミネラル・微量元素の栄養学1994年」(第一出版)73ページ・297ページ
[注6]上西一弘・江澤郁子他「日本栄養・食糧学会誌」1998年51巻5号259−266ページ

3.ご著書70ページで『牛乳を飲みすぎると骨粗鬆症になる』と述べておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
牛乳を飲むことにより骨粗鬆症になることはありません。
牛乳・乳製品の摂取を増加させると小児期では骨密度の獲得に寄与し、中高年期では閉経後の骨量減少を抑制することが報告されています。[注7][注8][注9][注10]
日本人の60歳以上の女性の牛乳摂取頻度と骨の健康状態について調査した報告では、子供の時から牛乳などでカルシウムを積極的に摂る習慣をつけ、最大骨量を増やすことが重要だと述べられています。[注11]
また、女子栄養大学による中・高校生男女6,000人を対象とした調査では、牛乳の摂取量が多いほど骨量が多いと報告されています。[注12]
さらに、厚生労働省の食事摂取基準では母子保健の立場から、妊婦におけるカルシウムの付加的摂取が望まれています。[注13]
牛乳を飲むことによりカルシウムの摂取ができ骨粗鬆症の予防に有効であるとの研究が世界中の研究者により報告されています。
なお、ハーバード大学で米国人7万8,000人を12年間追跡した論文[注14]では、牛乳を多く飲むグループと少ないグループの骨折リスクなどについて調査しています。そこに“牛乳あるいは食物起源カルシウムをより多く摂取すると骨折発生が減るという証拠は見出されなかった”とは記載されていますが、牛乳を多く飲むグループが骨粗鬆症になるとの記載はありません。
ナース健康調査[注15]では“1日にコップ2杯以上のミルクを飲んだ女性と1週間にコップ1杯未満のミルクしか飲んでいない女性での大腿骨頸部や前腕を骨折する率は少なくとも同じだった”とは記載されていますが、牛乳の摂取が多いほど骨粗鬆症になりやすいとの記載はありません。

[注7]伊木雅之「厚生労働科学研究報告2003年4月」
[注8]Hirota T,et al「Am J Clin Nutri」1992年55巻1168−1173ページ
[注9]Johnston CC Jr, et al「New England J Med」1992年327巻82−87ページ
[注10]Reid IR,et al「Am J Med」1995年98巻331−335ページ
[注11]杉浦英志他「日整会誌」1992年66巻873−883ページ
[注12]上西一弘、石田裕美:食の科学:2002年295巻4−10ページ
[注13]厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2005年版)添付資料35ページ
[注14]Feskanich D,et al「American Journal of Public Health」1997年87巻6号992−997ページ
[注15]Willett WC,Skerrett PJ「EAT,DRINK,and BE HEALTHY」2001年

4.ご著書73ページで『牛乳を毎日たくさん飲んでいる世界四大酪農国であるアメリカ、スウェーデン、デンマーク、フィンランドの各国で、股関節骨折と骨粗鬆症が多いのはこのためでしょう。』と述べておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
前述しましたハーバード大学の論文では、牛乳の高消費量が骨折リスクを下げることはないと報告されていますが、牛乳をたくさん飲むことで大腿部骨折が多いとの報告はなく、骨粗鬆症が多いとの報告もありません。
北欧の女性では他国と比べて大腿部の骨折が多い傾向にありますが、これは運動の種類・運動量およびカルシウムの体内への吸収に大きなかかわりを持つ日光などの影響があるためで、牛乳が原因とは考えられていません。[注15]
カルシウムの摂取不足が骨折の危険因子であるという研究データは内外で多く報告されています[注16]し、継続的な牛乳摂取が骨折リスクを上げないという報告もあります。[注17]
日本「骨粗鬆症学会」「骨代謝学会」「内分泌学会」「産婦人科学会」「整形外科学会」などで牛乳・乳製品を摂取することで骨粗鬆症になる、あるいはリスクが高まるという発表が行われたことがなく、「アメリカ骨代謝学会(ASBMR)」「アメリカ骨粗鬆症財団(NOF)」「国際骨粗鬆症財団(IOF)」「世界保健機構(WHO)」でもそのような発表はありません。

[注16]Holbrook TL,et al「Lancet」1988年1046−1049ページ
[注17]杉浦英志他「日整会誌」1992年66巻873−883ページ

5.ご著書69ページで『牛乳ほど消化の悪い食べ物はないといっても過言ではありません。』『牛乳に含まれるタンパク質の約八割を占める「カゼイン」は、胃に入るとすぐに固まってしまい、消化がとても悪いのです。』と述べられておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
牛乳は消化吸収に優れた食品の一つです。牛乳たんぱく質(カゼイン)は胃の中で酸や酵素により、固まりますがそれにより消化されにくくなることはありません。
カゼインは牛乳中ではリン酸カルシウムの関与のもとコロイド粒子として存在し、内部はたんぱく質分解酵素が自由に入れる緩やかな構造を持っており、容易に分解されます。[注18]
肉は加熱により消化されやすくなるとの理由で加熱して食べますが、その理由はたんぱく質が加熱により消化酵素の作用を受けやすくなるからだと考えられています。一方、牛乳中のカゼインは肉のように熱を加えなくとも、そのままの形で消化酵素により容易に消化可能な構造を持つ極めて優れた食品たんぱく質です。
食品たんぱく質の消化率を比較したデータによりますと、牛乳は98.8%、牛肉は97.5%、鶏卵は97.1%と主要なたんぱく質食品の中で、牛乳の消化率は最も優れています。[注19]

[注18]Thompson MP, et al 「Neth.Milk Dairy  J.」1973年27巻220―239ページ
[注19]中江利孝「牛乳の栄養学的ならびに生理学的効果に関する総合研究」1978年63―104ページ、(社)中央酪農会議編

6.ご著書72ページで『日本ではここ三十年ぐらいのあいだに、アトピーや花粉症の患者が驚くべきスピードで急増しました。(中略)その第一の原因は、(中略)学校給食の牛乳にあると考えています。』と述べられておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
アトピーや花粉症が単純に学校給食牛乳に起因するという科学的根拠は全くありません。学童期のアトピー性皮膚炎は牛乳などの食物よりも環境要因が悪化因子となっており、学校給食における牛乳の摂取には変化が無いにも関らず、有症率が減少(1992年17.3%→2002年13.8%)していると報告されています。[注20]
一方、花粉症は近年増加していますが、学校給食の牛乳が原因とされる報告は全くありません。
乳幼児期にみられるアトピー性皮膚炎や成人の花粉症、アレルギー性鼻炎などが増えていますが、その原因となるアレルゲンは食品ばかりでなく環境の中の花粉・ダニ・昆虫・建材・排気ガス・チリ・埃などあらゆるものに起因しています。[注21]

[注20]西日本小児アレルギー研究会・有症率研究班「日本小児アレルギー学会誌」2003年17巻3号255−268ページ
[注21]「アレルギー疾患ガイドブック2004」(東京都)7ページ

7.ご著書70ページで『市販の牛乳を(中略)子牛に飲ませると、その子牛は四、五日で死んでしまうそうです。』と述べられておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
市販の牛乳を子牛に飲ませても全く安全で、健康に生育し、それが原因で死ぬことは決してありません。
生まれてすぐの子牛は母牛の胎盤を通して免疫たんぱく質を受けていませんので免疫成分を多量に含んだ母牛の初乳を一週間ほど与える必要があります[注22]が、その後の子牛に市販の牛乳を母牛から授乳するのと同じように温めて飲ませても、健康に全く影響はありません。実際に、通常どおり初乳を与え受動免疫を得た生後4〜18日の子牛を対象に市販牛乳を4〜10日間、1日に4リットル(2リットル×2回)給与する試験が行われましたが、哺乳牛には体調に何ら異常は認められず、その後も順調に生育しております。[注23]

[注22]NRC乳牛飼養標準2001年(デーリージャパン社)221ページ
[注23]独立行政法人家畜改良センター2006年「ホルスタイン種哺乳牛への市販牛乳給与試験」

8.ご著書75ページで『ヨーグルトの乳酸菌は、胃に入った時点でほとんどが胃酸で殺されます。(中略)腸まで届いたとしても、はたして常在菌と手を取り合って働くことが本当に可能なのでしょうか。』と述べられておられますが、この見解を裏付ける科学的根拠をお教え下さい。

【牛乳乳製品健康科学会議の見解】
紀元前数千年前から利用されてきた歴史的・世界的食品であるヨーグルトの健康効果は海外でも広く認められています。
ヨーグルトは乳酸菌が死滅しても、乳酸発酵生成物や菌体成分による健康に対する効果があります。[注24]また、ヨーグルトの乳酸菌の中には”生きたまま腸に届く”ことが検証され、効果を発揮するものもあります。[注25]
特定保健用食品として認められているヨーグルトには「○○菌の働きにより腸内細菌のバランスを整えておなかの調子を良好に保ちます」「○○菌の働きにより腸内環境を良好にします」、さらに「○○菌株の働きにより腸内環境の改善に役立ちます」など生菌・死菌を含めた効果が科学的根拠に基づいて述べられています。[注26]
ヨーグルトや牛乳成分は、腸内善玉菌の代表格であるビフィズス菌などの腸内細菌に利用されることにより、腸内細菌のバランスに影響し腸内で善玉菌が優勢になりヒトの健康に有益な影響をもたらします。[注27]

[注24]光岡知足著「ヨーグルト健康法」2000年(青春出版社)39ページ
[注25]ELLi M et al「Appl Environ Microbit」2006年72巻5113−5117ページ
[注26]財団法人日本健康・栄養食品協会ホームページ
[注27]細野明義「ヨーグルトの科学」2004年(八坂書房)95ページ

以上のように8項目に関して私どもの見解を申し述べさせていただきました。新谷先生のご見解をお知らせいただきたくお願い申し上げます。なお、当問い合わせ内容はメディア等に公開したいと考えておりますので、予めご承知置きください。
なお、「牛乳乳製品健康科学会議」の事務局を社団法人日本酪農乳業協会に置いておりますので、お問い合わせとご回答は下記までお願い致します。ご多忙とは存じますが、新谷先生のご見解を2007年4月30日までにお知らせいただきますようお願い申し上げます。
末筆ながら、新谷先生のご健勝をお祈り申し上げます。

敬具

2007年3月28日
牛乳乳製品健康科学会議会長
(健康科学大学 学長)   折茂 肇



牛乳乳製品健康科学会議事務局
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