牛乳アレルギーの人がいると聞きますが、これはどうして起こるのですか ?

___牛乳を飲むと下痢、湿疹、喘息などの症状を起こすことがあります。これを牛乳アレルギーといいます。
___その原因は、牛乳のたん白質が充分消化されないまま吸収されると、それが抗原となって、体内に入り、これに対する抗体ができます。
___このような状態のところへ、再び、抗原であるたん白質が吸収されると、抗原抗体反応が起こります。その結果がアレルギーとなって表れるのです。

___しかし、このような現象は牛乳に限ったことではなく、たん白質を含む食品すべてにあてはまることです。

___牛乳が話題になるのは、乳児にこの牛乳アレルギーがあるからです。
___生まれて間もない赤ちゃんに牛乳、または牛乳を原料とした人工乳を与えると、消化機能が充分に発達していないので、体内で牛乳たん白質に対する抗体ができ、牛乳アレルギーを起こしやすい状態をつくります。また、遺伝的体質が関係していることも考えられます。

___しかし、乳児期の牛乳アレルギーは、2〜3歳頃までにはたいてい治るので、それほど心配することはありません。ただし、新生児に牛乳たん白を与えることは注意が必要です。

___成人で牛乳アレルギーの人もまれにいますが、牛乳を飲んで下痢をする成人の場合は大部分が乳糖不耐になるものです。これは、一度にたくさんの牛乳を飲むと、下痢や、腹痛、腹部不快感などの症状が表れることで、牛乳アレルギーではありません。日本人にはこの乳糖不耐症の人がいます。

乳糖不耐症とは?
___牛乳を飲むと下痢をおこす人がいます。これは牛乳中の乳糖を消化するラクターゼ(加水分解酵素)が不足しているためです。このことを「乳糖不耐症」あるいは「低ラクターゼ症」と呼んでいます。

___生活環境の厳しい北欧の人々は、日光不足によるビタミンD欠乏症になっていると思われがちですが、以外とくる病にかかる人が少ないといわれています。これは乳糖に対して強い体質をもつ民族であり牛乳を多量に飲んでも下痢をする事もなく乳糖の作用によってカルシウムを有効に吸収しているからだと言われています。

___しかし日本人は、乳糖を分解する酵素が少なく、ラクターゼ活性が低いといわれています。牛乳を沢山飲める乳糖に強い体質をつくるために比較的ラクターゼの活性が強い少年期に、牛乳を習慣的に飲用することが必要です。

___最近の若い年代層は牛乳を飲むため欧米並に強い体質になってきました。従って毎日牛乳を飲む習慣を保てばラクターゼ活性が高められ抵抗力が強くなります。

___牛乳には、乳糖が4.5 %含まれていて、これは哺乳動物の乳以外には殆ど存在しない特有の糖質であり、ブドウ糖とガラクトースの二つの糖が結びついたもので、重要なエネルギーになっています。その生理作用は、 

  • カルシウム及び鉄の吸収を促進する作用  
  • 腸内の乳酸菌発酵を正常にし便秘を防ぐ働き 
  • ビタミンの合成
  • 血中コレステロール濃度の低下があげられます。
 このためラクターゼ活性の強い体質にするため、毎日牛乳を飲んで酵素を高めることが非常に重要になってきます。


中京短期大学教授/農学博士:土屋文安先生のおはなし
●乳幼児に多い牛乳アレルギー
___牛乳を飲むと、下痢をしたり、喘息を起こしたり、あるいは、じんま疹になったりすることがあります。これを牛乳アレルギーといいます。ミルクアレルギーという人もあります。このような症状を起こす人は、飲む牛乳だけでなく、牛乳成分を含んだすべての食品でアレルギーを起こす恐れがあります。

___アレルギーは牛乳に限らず、あらゆる食品で起こる可能性があります。それなのに、多くの食品の中で、牛乳や卵がアレルギーの点で問題にされることが多いのは、これらが広く人々に利用され、また食品素材としていろいろな食品に用いられているからです。とくにこれらは、赤ちゃんに母乳の代わりや、離乳食としてよく使われるからでもあります。  

___牛乳アレルギーは生後2〜3か月の乳幼児に起こり、2〜3歳頃までに治ってしまうことが多いのですが、まれには成人にまで続くこともあります。

●牛乳アレルギーについて
___牛乳アレルギーは、食物アレルギーの1つです。数多い食物アレルギーの中で、牛乳アレルギーがとくに問題にされるのは、乳幼児で起こることが多いからです。その原因として、新生児に牛乳あるいは牛乳を原料にした調整乳を与えることが問題にされています。

___生まれたばかりの赤ちゃんは、消化力が弱くてタンパク質をアミノ酸にまで分解しきれず、大きな分子のままに残りやすくなります。その上、赤ちゃんの腸管壁は未熟でそのような大きな分子を通しやすいので、大きな分子血液中に入って抗原として働き、抗体を作ってしまうからです。母乳のタンパク質でも同じことが起こる可能性はありますが、母乳のタンパク質は人間本来のものですから、赤ちゃんの体はこれを異物と認識しないので、抗原とならず抗体は作られないのです。牛乳タンパク質は人にとって異種タンパク質ですから、体内に入るとこれを排除しようと抗原抗体反応が起こり、これが牛乳アレルギーというわけです。

___なお、母乳中には免疫グロプリンAが含まれており、これは腸の内面を覆って細菌やウイルスの感染を防いでいるのですが、同時に大きな分子が腸壁から吸収されるのも防いでいるといわれています。この点からも母乳の代わりに牛乳を与えると、牛乳に対する抗体が出来やすい、つまり牛乳アレルギーになりやすいということになります。

___注意しなければならないのは、タンパク質が十分消化されずに大きな分子のままで吸収されるということは、牛乳や牛乳から作った調整乳だけの特別の現象ではありません。大豆乳を用いれば大豆アレルギーの起こる可能があります。ただ、母乳の代わりに用いられるのは、牛乳からの調整乳が圧倒的に多いので牛乳アレルギーが問題になりやすいということです。

___これまで述べた理論からいえば、母乳栄養児では牛乳アレルギーが起こるはずがありませんが、まれに母乳で育てても牛乳アレルギーが起こることがあります。これはお母さんが飲んだ牛乳のタンパク質の一部が、抗原としての作用を残したまま母乳の中に出てくるためと考えられています。したがって、アレルギー体質の家系の人は、授乳期間中は牛乳を大量に飲まないような注意が必要でしょう。卵などについても同様です。

___牛乳アレルギーの頻度は、報告した人によってかなりの違いがあり、0.3%〜7.5%くらいまであります。わが国では0.5%〜1%という臨床経験が発表されています。数字がかなり違うのは、調査対象が異なったり、診断基準にずれがあったりするからだと思われます。

___牛乳アレルギーの症状にはいろいろありますが、下痢88%、嘔吐44%、腹痛39%、アトピー性皮膚炎33%、鼻炎31%、喘息31%、じんま疹13%、アナフィラキシー(全身的な激しい反応)12%という調査報告があるように、消化器症状が最も多くみられます(1人の患者が幾つかの症状を示すことが多いので、合計は100%以上になっています)。

___天然のタンパク質分子は、一定の立体構造を持っています。殺菌や調理などによって加熱すると、その構造が壊れます。この現象をタンパク質の変性といいますが、変性したタンパク質はアレルゲンとして性質が減ると考えられています。離乳期に赤ちゃんに与える卵は、かたゆでにするよう指導されるのはそのためです。

___米国で長い間、育児用に無糖練乳(エバミルク)が用いられてきた理由の一つは、十分に加熱されているのでアレルギーを起こしにくいということからです。しかし、近年の研究では加熱だけでアレルゲン性が完全に消失しないこともあきらかにされていますので、加熱さえすればよいと安易に考えてはならないでしょう。

ハート出版<こんなにすごかった牛乳の秘密>より抜粋