牛乳と生活習慣病
牛乳には生活習慣病を予防する
働きがあることが認められています。


栄養成分が豊富な牛乳の摂取は栄養過剰になり、生活習慣病のリスク要因になるという誤解が一部にあります。しかし各種の研究データでは、牛乳はがん、高血圧、高脂血症、糖尿病などのリスク要因にならないばかりか、そのリスクをコントロールしたり、低減する働きが認められ、生活習慣病の予防に貢献していると考えられます。

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「過ぎたるはなお、及ばざるがごとし」といわれるように、牛乳が栄養バランスに優れた食品だからといって、毎日牛乳だけといった極端に偏った食生活を続けていると、生活習慣病を招きかねません。これは牛乳にかぎらず、どの食品についてもいえることです。

牛乳だけを摂取して健康を損ね、「牛乳は体によくない」といった主張は、栄養学の基本を無視した考えといえるでしょう。

生活習慣病の予防の基本は、食生活の改善です。平成12年に策定された国の食生活指針に示されているように、「主食、主菜、副菜を基本に食事のバランスを」、「野菜、果物、牛乳・乳製品、豆類、魚などを組み合わせて」摂ることが、健康を増進し、QOLを向上させるための必須条件です。1日30品目の食品を摂るという食生活の基本を守り、その中に牛乳を上手に取り入れることが大切です。



牛乳のカルシウムには、生活習慣病予防の第一歩である肥満を予防する働きが認められています。

肥満は中高年だけでなく、若者、子どもにまで幅広い年齢層に広がっています。肥満は万病の元といわれるように、さまざまな生活習慣病の引き金になります。したがって肥満の解消は、生活習慣病予防の第一歩といえます。

米国の疫学調査で、牛乳・乳製品に含まれるカルシウムには、体脂肪率や体重を下げる働きがあることが明らかになっています。

糖尿病は、血液中の糖(血糖)の濃度が慢性的に高くなる病気です。糖尿病は、予備軍を含めると1,620万人もいるといわれています。糖尿病は、初期の段階では自覚症状がないため、半数以上が治療を受けていません、糖尿病は、放置しておくと、網膜症、腎症、神経障害などの合併症を引き起こします。さらに動脈硬化を進展させ、心筋梗塞や脳梗塞などの発症のリスク要因となります。

糖尿病には、インスリンを分泌するB細胞が破壊されてインスリンが欠乏する1型糖尿病と、肥満などでインスリンは分泌されていてもその働きが悪くなって発症する2型糖尿病があります。日本人では2型糖尿病が大多数を占めています。

2型糖尿病では、インスリンが分泌されてもその働きが悪くなるインスリン抵抗性症候群という病態がありますが、牛乳・乳製品の摂取によって、インスリン抵抗性が改善されるという報告が出されています。

また、最近GI(グリセミック・インデックス)という新しい栄養指導の指標が導入され、糖尿病の食事指導にも採用されています。GIは食後の血糖値の変化を示す指標で、糖尿病では、食後の血糖値の上昇を抑えることが、糖尿病の悪化を防ぐカギとなっています。牛乳はこのGIが低く、肥満や糖尿病の予防・改善につながる食品として期待されています。

なお、牛乳が1型糖尿病の発症と関係があるという主張が一部にありますが、その関係は証明されていません。


日本人に多い高血圧、高脂血症のコントロールにも牛乳の効用が認められています。

日本人の高脂血症は約2,000万人といわれています。高脂血症も自覚症状がないため、未治療の患者さんも少なくありません。最近では、高脂血症は中高年だけでなく、子どもや若者にも増加してしているのは、油脂に加えて糖質の多い清涼飲料やアルコールの過剰摂取などが大きな原因となっています。

高脂血症には、総コレステロール値が高い高コレステロール血症、中性脂肪が高い高トリクリセリド血症、悪玉コレステロールといわれるLDLコレステロール値が高い高LDLコレステロール血症があります。

高脂血症は肥満、糖尿病、高血圧を合併すると動脈硬化を促進し、心筋梗塞を招く「死の四重奏」となります。

牛乳には脂質が含まれるため、その摂取はコレステロール値を上昇させるように思われますが、いくつかの調査によると1日600ml程度までは、血清コレステロール値を上昇させないことがわかっています。

日本人には高血圧の人が3,000万人もいるといわれています。高血圧の85〜90%を占めるのが本態性高血圧で、加齢とともに患者数が増えてきます。本態性高血圧の発症には、遺伝的素因と環境要因が影響しています。環境要因には、肥満、塩分の過剰摂取のほか、運動不足、喫煙、ストレスなどが挙げられます。

牛乳にふくまれているカルシウムが、高血圧を予防することが疫学調査で明らかになっています。ただし、そのメカニズムは解明されていません。

また糖尿病、高脂血症、高血圧などによって動脈硬化が進み、心疾患(心筋梗塞・狭心症)を発症しますが、牛乳・乳製品の摂取は、心疾患のリスク要因にはならないことが、欧米の疫学調査で明らかになっています。


牛乳には、がんの発生率を低下させるというデータが出されています。

日本人の死亡原因で最も多いのががんで、全死亡数の約3分の1を占めています。がんの原因となるものは、喫煙、食事、放射線、環境汚染、食品添加物、ウイルスなどで、いずれもわれわれの身の回りにあるものです。したがって、ガンを予防するためには、これらの要因を避けることと、がんに対する免疫力、抵抗力を強くすることです。この免疫力、抵抗力は、生活習慣、特に食生活と深く関っています。

最近日本人に増えている大腸がんや乳がんは、動物性脂肪の過剰摂取が、胃がんは塩分の過剰摂取が関与していると指摘されています。

牛乳とがんの関係ですが、疫学調査によると牛乳の摂取により、胃がん、大腸がんや乳がんの発生率が低下するというデータが出ています。また三次機能の研究で牛乳には、免疫力、抵抗力を高める働きがあることが認められています。


寝たきりの原因となる骨粗鬆症の予防には牛乳は欠かせない食品です。

高齢化社会のなかで介護が必要となる原因として、脳血管疾患に次いで多いのが転倒・骨折です。転倒・骨折は骨粗鬆症が背景要因となっているカースが大半です。骨粗鬆症は閉経後の女性に急増する病気で、日本では約1,000万人の患者さんがいるといわれています。

骨粗鬆症の予防にはカルシウムの摂取が重要であることはよく知られています。牛乳はそのカルシウムの補給源として最適な食品です。牛乳の積極的な摂取により、骨折率も低下するというデータが報告されています。

このほか、関節に激痛の発作を起こす痛風(高尿酸血症)についても、牛乳の摂取により、そのリスクが低下するという疫学調査が報告されています。