骨粗鬆症
【3.生活習慣】

藤原佐枝子
放射線影響研究所臨床研究部



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1.骨粗鬆症と生活習慣
2.骨粗鬆症に影響を与える生活習慣
1)食習慣
2)運 動(表1)
3)喫 煙
4)飲 酒
5)カフェイン
6)薬 剤
3.大腿骨頸部骨折に影響を与える生活習慣
参考文献


1.骨粗鬆症と生活習慣

 骨粗鬆症は閉経後女性に多く年齢が高くなるにしたがって増加することはよく知られている。最近では骨粗鬆症に関係する遺伝子が報告され注目されている。しかし、性、年齢、遺伝的因子など、もってうまれた自分でコントロールできない因子だけで将来の骨粗鬆症の発症が決まるわけではなく、生活習慣も骨粗鬆症の発症に重要な役割をもっている。予防という点では、この生活習慣が大変重要である。

 時代とともに生活習慣は変化し、地域によっても生活習慣は異なる。したがって、時代あるいは地域によって疾患の頻度がどのように変化しているかを調べると、その疾患の発生にどのように生活習慣が影響しているのかを知る手がかりになる。

 日本人の椎体骨折の発生率を出生年別に比べると、近年に生まれた人ほど発生率は低下していた(*1)。戦後、食生活が西欧化し、カルシウム摂取量は昭和25年ごろに比べ昭和40年代後半には約2倍となり、脂肪、蛋白質の摂取量も多くなった。それに伴い、体格は向上し、初潮年齢は早く、閉経年齢は遅くなっている。これらの変化が、椎体骨折の減少を導いたと考えられる。さらに、同じ日本人の遺伝的素因をもち生活環境、特に食生活が異なる日系アメリカ人と日本人を比べると、日系アメリカ人の骨量が高く、椎体骨折の有病率は低かった(*2)。骨量や椎体骨折の発生は、食生活の変化、それに伴う体格の向上、初潮年齢、閉経年齢の変化などの影響を強く受けていると考えられる(*3)。

 一方、大腿骨頸部骨折の発生率は近年増加している。この傾向はアメリカ、ヨーロッパ、アジアの国々でもみられる。日本人の大腿骨頸部骨折の発生率は、欧米の白人に比べて低く、ハワイ生まれの日系アメリカ人や香港の中国人とほぼ同じであった。また、大腿骨頸部骨折の発生率は田舎より都市に高い。大腿骨頸部骨折の発生には、近代化、都市化に伴う環境や生活習慣の変化が影響を与えていると考えられる。

 これらの疫学調査から、骨粗鬆症、椎体骨折、大腿骨頸部骨折の発症には、遺伝的、身体的因子に加え生活習慣が重要な役割をもってること、椎体骨折と大腿骨頸部骨折は骨粗鬆症を基盤に起こる骨折であるが、異なる危険因子も関与していることが推測される。

2.骨粗鬆症に影響を与える生活習慣(図1)

1)食習慣

 骨は思春期に成長が停止した後も活発に骨吸収・形成をくり返し骨を再構築している。骨を構成している基本的な物質はカルシウムで、食事から供給され、尿、汗、便に排泄される。したがって、骨の発育や骨粗鬆症の予防には、カルシウムを十分に摂取することが重要であることは一般にもよく知られている。

【図1】骨粗鬆症の危険因子

 カルシウム摂取と骨粗鬆症の関係を調べた調査は古くからあったが、必ずしも結果は一致していなかった。カルシウムの効果が明らかになってきたのは比較的最近のことで、カルシウムを投与した群と投与しなかった群の骨量の変化や骨折の発生率を調べる調査(介入調査)で証明されてきた。

 成長期においては、思春期の子どもは、思春期を過ぎた子どもより骨量増加が大きく、カルシウム摂取の効果も大きい(*4)。思春期前に十分なカルシウムを摂取しておくことはピーク骨量を増やすうえで非常に重要である。

 思春期を過ぎ、20歳代から40歳代の閉経前の女性について、骨量変化を追跡した調査はすくない。 Recker ら(*5)は、20歳代女性のカルシウム摂取群では、10年間に換算して全身骨で12.5%、腰椎で6.8%の骨量増加を認めた。ほかの追跡調査からも30歳くらいまでは、カルシウム摂取によって骨量が増え、部位によっては、それ以降も増える可能性が示唆とれている。

 閉経後数年間は骨量が最も減りやすい時期である。 Dawson-Hughes らの報告(*6)では、閉経後5年未満では、1日500mgのカルシウムを補給しても効果はみられなかったが、閉経後5年以上経った女性で、食事からのカルシウム摂取量が400mg/日以下の人では、カルシウム補給によって骨量減少速度が鈍化した。
一方、閉経後3年以上経った女性に、1日1,000mgのカルシウム剤を2年間投与すると全身の骨量減少が43%改善し、腰椎や大腿骨頸部の骨量にも効果があった(*7)。
これらの結果から、閉経直後はエストロゲンの消退の影響が大きく、カルシウム補給の骨量に対する効果は小さいけれど、閉経後一定期間経つと骨量減少をゆるめる効果があり、特にカルシウム摂取量の少ない食生活をしている人は効果があると考えられる。

 これまで紹介した調査は、食事からのカルシウム摂取が比較的多い欧米の白人女性を対象にしている。一方、食事からカルシウムを1日400mg弱しか摂っていない香港の中国人やハワイの日系人を対象にすると、閉経直後の女性にホルモン補充療法を行う場合に、カルシウム剤を併用した方がホルモン補充療法単独よりも骨量減少が抑制された(*8)。食事からのカルシウム摂取量の少ない人には、閉経直後もカルシウムの補給は効果があると考えられる。

 これらの結果から、骨量に対するカルシウム摂取の効果は、年齢に応じて一定の閾値があり、その量を超えるとカルシウム・バランスはプラトーに達してカルシウム摂取の効果は少なくなるようである。
米国保健省はカルシウム・バランスや骨粗鬆症の予防を考えて、閉経後の女性には、1日1,500mgのカルシウム摂取を勧めている(*9)。日本の厚生省は成人カルシウム所要量を600mgとしているが、現在、日本人のカルシウム摂取量は1日平均579mgで所要量に満たない状態である。カルシウム・バランスから考えると、日本人においても、閉経後の女性や高齢者には1日800〜1,000mgのカルシウム摂取が望ましい。

 カルシウム摂取の効果は運動を併用すると、カルシウム摂取あるいは運動を単独に行うより効果がある。

 ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を促進するホルモンとして知られているが、ビタミンDとカルシウムを併用すると、平均年齢84歳の高齢女性の集団においても、骨量が2.7%増え、大腿骨頸部骨折の発生は約半分に低下した(*10)。

 ビタミンKは海草、大豆、Kは納豆に多く含まれている。ビタミンKと骨代謝の関係はいくつか報告され、治療薬としても使われているが、食生活におけるビタミンKの役割についての報告は少ない。

2)運 動(表1)

【表1】運動の骨量、骨折に対する効果
成人期までの運動
(骨量を増加、維持)
中高年以降の運動
(筋肉、運動能力の低下を防ぐ)
1.体重のかかる運動
、、(ジョギング、バレーボール、体操など)
1.散歩など継続的に行う
2.運動量が多い方が効果的
、、ただし、女性では激しすぎると逆効果
2.カルシウムやホルモン補充療法と
、、併用すると効果的
3.継続的な運動が必要
4.運動開始は初潮前が効果的

 骨は運動負荷を加えたときより、運動や体重などの負荷を取り除いたときに最も影響を受ける。最も端的な例が、無重力状態で何日か過ごした宇宙飛行士の経験である。1965年に打ち上げられたジェミニ4号、5号の飛行士の骨からは約10〜20%のカルシウムが失われた。
もっと身近には、寝たきりの人が、わずかな力が加わっただけで骨折するという深刻な問題がある。臥床したままでいると2日以内に呼吸は亢進し、1週間に1%、数カ月で10〜20%の骨量が減少する。日本人女性の閉経直後の骨量低下は年間約2%と報告されているので、臥床による骨量減少がいかに大きいかがわかる。このような極端な力学的ストレスの減少では骨量低下を来すが、軽度の運動不足がどの程度骨量に影響を与えるかは明らかにっていない。

 小児期、思春期における運動は、ピーク骨量を高め、成人期においても運動によって骨量は増加する。運動は、初潮前にはじめた方が効果があり、初潮以降はじめた女性に比べて約2倍の効果があった。運動の種類は、体重がかかり瞬発的な刺激が加わるバレーボールや体操などが、水泳より骨に対する効果は高いとされている。しかし、運動の効果は、運動量と関係があり、運動量が多い場合は骨量は増加するが、中等量以下の運動量では、骨量に影響を与えないという報告もある。ただし、女性で激しい運動をし過ぎると無月経となり、かえって骨量は低下するので注意が必要だ。

 閉経後の運動の効果について、1年間毎日1マイル(約1.6km)歩くと、骨量の低下速度が遅くなった(*11)。さらに、カルシウムやホルモン補充治療に運動を併用すると単独に行うより効果があると報告されている(*12)。その運動処方は、歩行、ジョギング、階段登りなどの体重のかかる運動を1週間に3回以上、1日45分以上を約9カ月続けている。しかし、運動の効果は、運動を中止するとただちに元に戻り継続的な運動が必要である。

 運動の効果は骨量増加や維持に働くだけでなく、運動能力を保ち転倒しにくくなったり、骨周辺の筋肉組織を増強して、転倒したときの衝撃を緩和するなどの効果もあると考えられる。

3)喫 煙

 喫煙はエストロゲン代謝に影響を与えたり、カルシウムの吸収を障害し尿中への排泄を促進する。間接的な影響として、喫煙者は閉経年齢が早く、体重が減り、その結果、骨量が低下すると考えられる。さらに、骨芽細胞機能を低下させる直接作用も報告されている。

 同じ遺伝的素因をもつ20歳後半から70歳代の双子女性を対象に、喫煙の影響を調べると喫煙者は明らかに骨量が低く、閉経まで毎日タバコを1箱吸うと5〜10%骨量が低下した(*13)。また、若年者においても、喫煙者の骨量は低かった。

 成長期の骨量増加に対しても、喫煙は影響を与える。9歳から18歳の成長期の男女を約11年間追跡して、ピーク骨量を比較すると、男性においては規則的に運動をしてタバコを吸わない人の骨量が高かった。さらに、中年男性の追跡調査から、多量の飲酒、喫煙習慣のある人は、量の少ない人に比べ16年間で約2倍の骨量減少が認められた(*14)。

4)飲 酒

 アルコール中毒患者では、骨量が低下し、骨折の発生率が高くなる。アルコールの多量摂取で、肝機能障害が起こりビタミンD代謝障害が起きたり、慢性の低栄養状態になり骨量の低下を促進すると考えられる。さらに、エタノールの代謝産物のアセトアルデヒトには骨形成を低下させる作用があると報告されてる。

 しかし、中等量以下のアルコール摂取が骨低下をもたらすかどうかはわかっていない。他方では、閉経後女性のアルコール摂取量が多い人は高い骨密度を示すという報告もある。その報告では、アルコールはアンドロステンジオンからエストロンへの変換を促すので、閉経後の骨量を増加させる可能性があると解釈されている。

5)カフェイン

 カフェインは尿からのカルシウム排泄を増加させる作用があり、多量のコーヒーを飲むと体内のカルシウムバランスが負に傾く。

 閉経後女性で、毎日ミルクを飲んでいる人は、コーヒーを飲んでも骨量には影響がないが、ミルクを飲まずに1日2杯のコーヒーを飲み続けると骨量は低下した(*15)。また、1日のカルシウム摂取量が800mg以下の人は、1日にカフェインを450mg以上(150mlのコーヒー約3杯分)摂ると骨量減少速度が速かった。

 このように、カフェインの骨量に対する影響は、カルシウム摂取量に依存し、カルシウム摂取が十分であれば、カフェイン摂取の影響は受けない。したがって、カルシウム代謝が負に傾きやすい高齢者やカルシウム摂取量の少ない人は、コーヒーを飲み過ぎないようにすることが大切だ。

6)薬 剤

 糖質コルチコイド、ゴナドトロビン放出ホルモンアゴニスト、甲状腺ホルモン、抗てんかん剤、抗凝固剤などは、骨粗鬆症を誘発する薬剤として知られている。反対に、エストロゲン、サイアザイドは骨量を高め、骨量減少を予防する効果がある。フッ素化物は強力に骨形成を刺激する作用があるが、骨量や骨折に対する効果は一致した結果が得られていない。