PART.1牛乳の栄養成分


牛乳は栄養バランスの優れた食品ですが、乳児にとって完全栄養食品である母乳と牛乳とを比較・混同することは無意味なことです。

母乳と比較するなら、対象はあくまでも乳児用調製乳であって牛乳ではありません。

ヒトが食べ物として口にするたんぱく質は、ヒトの母乳を除けばすべて異種たんぱく質ですから、異種たんぱく質を眼の敵にするのは的を得ません。

火の利用を覚えた人類は、やがて食べものを焼いたり煮たりと加工するようになりました。この過程でたんぱく質は加熱変性し、食べやすく、消化性も良くなり、さらにアレルゲン性の低下もみられました。これは人類にとって一大進歩です。

たんぱく質の「変性」とは、栄養価を高めるというプラスの面こそあれ、マイナスになるようなものではありません。



栄養評価の新しい尺度・栄養素密度でみるとさらに牛乳のメリットがわかります

牛乳は比喩的に”完全栄養食品”といわれるように、非常に栄養バランスのとれた食品です。牛乳の栄養成分の主なものは、糖質、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンですが、牛乳は栄養が豊富なため、エネルギー量が多いと誤解されがちです。しかし日本人の食事摂取基準でみると、多いのはカルシウムなどのミネラルとビタミンB群で、通常の摂取では肥満に結び付くことはありません。
__最近、食品の栄養価を評価する尺度として栄養素密度が用いられるようになりました。エネルギー100kcal当たりの栄養素の量を比較するのが栄養素密度の考え方で、牛乳は栄養素密度が高い食品です。栄養素密度が高いということは、少ないエネルギー量で必要な栄養素が摂取できるということで、牛乳は肥満の予防やエネルギー摂取量の少ない高齢者の食事にも幅広く推奨できる食品です。


ホエーたんばく質は加熱変性によって消化・吸収が高まり、栄養価が向上します。

牛乳のたんばく質はコップ1杯(200ml)で6.8g含まれ、1日当たりの推奨量(【資料】参照)の10%程度摂取できます。牛乳に含まれるたんばく質は、80%を占めるカゼインとホエー(乳清)たんばく質、非たんぱく態窒素化合物に大別されます。
__カゼインは特有のリン含有たんばく質で、カルシウムと結合してカゼインカルシウムとなり、リン酸カルシウムとも結合して複合体をつくり、牛乳中にコロイド状に分散しています。この複合体をカゼインミセルと呼びます。このカゼインミセルが牛乳特有の白濁をつくりだしています。

ホエーたんばく質は、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、免疫グロブリンなど加熱で凝固する成分から構成されています。加熱によってたんぱく質は変性しますが、たんぱく質のアミノ酸組成が変わるわけではなく、栄養価にも変化はありません。むしろ消化・吸収性が高まり、栄養価が向上します。
__たんぱく質の栄養価は、それを構成する必須アミノ酸の含量とその比率によって決まるとされています。牛乳のたんぱく質に含まれる必須アミノ酸は、人体に不可欠なアミノ酸パターンのすべてを十分に満たしています。
__さらに牛乳のたんぱく質には栄養成分としてだけでなく、感染防御機能、免疫調整機能、整腸作用などの三次機能といわれる生体調節機能があることが、最近の研究でわかってきました。


牛乳の脂質は消化・吸収が良いのが特徴で、血清コレステロール値をコントロールします。

牛乳の脂質はコップ1杯(200ml)で7.8g含まれ、エネルギー量は70kcalで牛乳全体の約半分に相当します。牛乳の脂質は微細な脂肪球として存在しており、表面積が大きく消化酵素による働きを受けやすいため、消化・吸収が良いのが特徴です。乳脂肪の成分はトリグリセリド(中性脂肪)が97〜98%を占めています。
__動物性脂質は、肥満や高脂血症のリスク要因として避けられる傾向がありますが、牛乳と血清コレステロールの関係を調べた各種の調査では1日600ml程度の牛乳摂取は、血清コレステロール値を上昇させないことが確認されています。
__また、乳脂肪中の共役リノール酸、スフィンゴミエリン、酪酸には、疫学調査や動物実験でがんの抑制効果が認められており、その機序などの今後の研究解明が期待されています。

牛乳の炭水化物の99.9%は乳糖(ラクトース)です。乳糖は哺乳類の乳以外にはほとんど存在しない特有の炭水化物です。乳糖は、体内で乳糖分解酵素(ラクターゼ)によってグルコース(ブドウ糖)とガラクトースに分解されて吸収されます。
__乳糖には整腸作用が認められています。乳糖は難消化性であるため、一部が未消化のまま大腸に達し、腸内の善玉菌の栄養源となり善玉菌優位の腸内環境をつくりあげ、善玉菌が乳酸や酢酸を分泌します。これらの酸には悪玉菌の繁殖を抑制する働きがあります。の結果、便秘の解消にも寄与しています。また乳糖にはカルシウムや鉄などのミネラルの吸収を促進する働きも認められています。
__ただ日本人には、乳糖分解酵素の働きが弱いために、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしたり、下痢をする乳糖不耐症の人がいます。乳糖不耐症であっても、牛乳を温めて飲む、少しずつ飲むなどの工夫をすれば症状が出ないだけでなく、乳糖分解酵素の働きも活性化してきます。


カルシウムには、骨粗鬆症の予防だけでなく、血圧のコントロールや月経前症候群の症状軽減などの働きが認められています。

飽食の時代になっても日本人に一貫して不足している栄養素がカルシウムです。カルシウムは、ヒトの体内に体重の1.5〜2%あり、その99%は骨と歯に、残りの1%は血液・筋肉・神経などの組織に存在します。カルシウムの摂取不足が続くと骨密度が下がり、将来、骨粗鬆症を招く危険性があります。骨粗鬆症は高齢の女性に多い病気で、転倒・骨折を招いて寝たきりになる主要な要因になります。

カルシウムには、骨粗鬆症の予防だけでなく、高血圧の予防、月経前症候群の症状の軽減、体脂肪率の低下などの働きも認められているほか、ストレスを和らげる働きもあるといわれています。

日本人に不足しているカルシウムの補給源として、牛乳は最も手軽な食品です。牛乳のカルシウムの吸収率について、牛乳に含まれているリンが阻害するという主張が一部にありますが、牛乳に含有されているカルシウムとリンの比率をみると、吸収を阻害することはありません。むしろ、牛乳のたんぱく質が消化される過程でできるカゼインホスホペプチド(CPP)が、カルシウムの吸収を促進することがわかっています。
__また、乳糖も腸管壁のカルシウムの透過性を高めて、吸収を促進する働きがあります。CPPや乳糖は、カルシウムだけではなく鉄や亜鉛などのミネラルの吸収も促します。

また、牛乳のカルシウムが腎臓結石のリスク要因になるという懸念がありますが、実際には、腎臓結石の成分であるシュウ酸と同時に牛乳を摂取すると、腎臓結石のリスクが低下するという報告が出されています。

カルシウムのほかに、牛乳に含まれるミネラルで含有率の多いものは、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素です。いずれも大切なミネラルですが、血圧を調節する働きがあるカリウムが豊富に含まれています。

牛乳にはビタミンB1、2、B6、パントテン酸、B12などのビタミン群が比較的多く含まれています。このうち、生活習慣病や老化を防ぐ働きがあるビタミンB2が豊富に含まれているのが特徴です。