5.成長期の骨密度と骨折

 生活年数の経過とともに骨折経験者が増加するのは当然であり、一般的傾向である。われわれの調査では、男子の場合は中学1年生ごろに2割前後の生徒が、高校3年生ごろには4割前後の生徒が過去に1回以上の骨折暦をもっていることが推定されている(*1)。
図10は、1994年調査の840名のデータを示したが、学年進行とともに骨折経験者数が増加していくことがわかる。

【図10】男子中学生、高校生の骨折暦

【図11】骨折群と非骨折群の骨密度

 そこで、この生徒たちを骨折経験のある者とない者とでその骨密度を比較してみると、骨折経験者の方が骨密度が高い(図11)。

 骨密度が高い者の方が骨が丈夫で骨折も少ないと考えられるが、男子の場合は本調査の結果からは実際は逆で、骨密度の高い者に骨折の者がわずかに多いことが示されている(*29)。

 一方、女子についての調査では、骨折経験者の方が骨密度が低いとする報告がみられ(*30)、男子の例とは傾向を異とする。

 男子では、骨密度の高い者は運動部に入ってしかも筋力もよく発達しており、筋パワーも大きくそれぞれに有意な相関がみられる。しかしながら、運動部に入って活動している者は、特に男子の場合、サッカーや柔道あるいはラグビーなどのようなコンタクトスポーツに参加する者も多く、骨折に遭遇する場面も多いことも一因とみることができよう。
男子の場合は、運動経験が豊富で骨密度が高く骨折も少ないというような単純な図式ではないかもしれない。一方女子では、骨折するまでの激しい身体活動は男子より少ないため、運動経験の豊富な者の方が骨密度が高く骨折も少ないという傾向が示されているのではないかと考えられる。

おわりに
@成長期の骨密度測定は、成長の過程をみるものとして大きな意味がある。
A骨密度は中学生から高校生の時期に著しく増加し、高校生の時期にほぼ成人並みになる。
B骨密度増加のスパートには第二次性徴によるホルモンの分泌も関与していると思われる。
C骨密度の増加には、衝撃や骨のたわみなどが働いており、機械的刺激を伴った運動やスポーツが効果的である。
D12〜13歳ごろまでは母親の骨密度に近似しているが、それ以後は家庭や親の影響より運動をはじめとするそれ以外の生活習慣の影響が強く影響し、16〜17歳ではその相関は低くなる。
E骨密度が高くても、傷害発生のリスクの高いスポーツを実施している場合は骨折を避けることのできない場面もあり、骨折を防ぐためには骨密度の上昇とともに身体支配能力も要求される。

参考文献
(*1)小沢治夫ほか:本校生徒の生活と健康実態に関する調査(第2報)、筑波大学付属駒場中・高等学校研究報告書 34:183−192,1995
(*2)市川宣恭、尾原善和:骨発育と身体運動、臨床スポーツ医学 3(2) :154-162,1986
(*3)小沢治夫、岡崎勝博ほか:発育期の生徒における体力の個人差についての基礎的研究、筑波大学付属駒場中・高等学校研究報告書 33:251-264,1993
(*4)井本岳秋、西山宗六ほか:子供のスポーツ活動と骨折・骨密度。体育の科学 43(9) : 696-701,1993
(*5)小沢治夫:スポーツ種目と骨密度。臨床スポーツ医学 11(11) : 1245-1254,1994
(*6)佐藤雄二:成長期の骨代謝に関する縦断的研究(第1報)。第50回日本体力医学会大予稿集:297,1995
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(*8)山村俊昭、石井清一:骨粗鬆症と運動。日経スポーツメディシン'92 : 20-25,1992
(*9)斉藤滋、川瀬俊夫、中野完ら:メカニカルストレスと骨(1)ーとくに電磁気シグナルについてー。 THE BONE 7(2) : 31-36,1993
(*10)遠藤直人、高橋榮明:骨と電気刺激。 THE BONE 7(2) : 49-54,1993
(*11)井本岳秋ほか:スポーツ選手の腰椎骨塩濃度と体組成。臨床スポーツ医学 9(別冊) : 312-313,1992
(*12)井本岳秋ほか:スポーツ選手の骨塩濃度と体組成。臨床スポーツ医学 9(7) : 819-824,1992
(*13)本田裕美ほか:腰椎骨密度(BMD)と体組成との関係について。体力科学 39 : 463,1990
(*14)松本高明、林高史ほか:マスターズ・スイマーの骨密度。1991年度臨床スポーツ医学予稿集:132,1991
(*15)Willam Risser et al. Bone density in eumenorrheic femle college athlete. Medicine and science in sports and exercise 22(5):570-574,1990
(*16)進藤さよ、宮永豊ほか:女子選手における骨密度と月経の関係。体力科学 39:443,10990
(*17)目崎登、佐々木純一:運動によるホルモンと骨密度の変動。The Bone 7(2):71-75,1993
(*18)松永俊二:電気刺激における骨形成の機序について。臨床整形外科 27:1349-1355,1992
(*19)小沢治夫、福永哲夫、渡辺功:各種スポーツと骨密度に関する断面研究。骨粗鬆症予防のための効果的運動療法の研究開発事業報告書:52-89,1992
(*20)井本岳秋ほか:女性の腰椎骨塩濃度と基礎体力。臨床スポーツ医学 10(6):701-706,1993
(*21)太田壽城、田畑泉:運動量と骨塩両。The Bone 7(2):55-60,1993
(*22)田中泰博・小沢治夫:ボディビルダーの骨密度とパワー
(*23)町田晃、井上哲郎:運動と骨ー骨粗鬆症に対して有効な運動ーThe Bone 7(2):43-54,1993
(*24)Dalsky GP, et al. : Weight-bearing exercise training and lumbar bone mineral content in postmenopausal women, Ann Intern Med 108:824-828,1988
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(*27)鳥居俊:疲労骨折と骨密度。臨床スポーツ医学 10(8):918-924,1990
(*28)小沢治夫ほか:骨密度における親子の相関について。第50回日本体力医学会大予稿集:196,1995
(*29)小沢治夫ほか:成長期における骨密度と骨折・ライフスタイルとの関係。第42回日本学校保健学会大会予稿集:1995
(*30)広田孝子ほか:若年からの骨粗鬆症の積極的予防法。体力研究 77:113-121,1991