2.子どもの骨密度と運動との関わり

 骨粗鬆症の予防と治療に運動がどのような役割を果たすかについては不明な部分もあって論議が多い、比較的よく受け入れられている事実は、一般に不動化が骨量の損失を起こし、座りがちな者が活発に運動する者に比較して骨量が少なく、運動がある程度関わりをもつが、エストロゲン濃度の低下を運動によって代償できないといわれていることなどである。

 ここでは、小児の骨密度と適正運量、高校スポーツ選手の腰椎骨密度、オリンピック日本代表女子選手の全身骨密度と諸問題などを紹介し、骨を丈夫にするための適正運動のあり方を考える。

1)骨密度と適正運動量

 重度の骨量減少症や骨粗鬆症による骨折、または将来そのいずれかに罹病することを最小限に抑える方法として、 peak bone mass (最大骨量)を最高にもっていくことがこれまでに提案されてきた(*10)。一方、骨の成長発達の研究は未成熟な特定疾患(*11)の骨密度の追究や横断的骨成長(*11)の観察が中心である。これは、骨成熟を最適にするにはどのような方法と因子があるのかを明らかにすることを目的にわれており、退行期骨粗鬆症の考え方とは異なっている。特に小児期の身体活動が骨成熟にどのように影響するのか不明な部分もあって、骨密度増加に関する運動処方の情報は少ないようである。

 小児の骨を丈夫にするためには、少なくとも体重の約3倍以上の衝撃負荷( Impact Load )のスポーツ活動(ランニング、体操、宙返り、ダンス)が必要で、頻度は週3回、2時間の訓練が行われている(*12)。
これらの種目で構成された平均年齢13.2±0.4歳の衝撃負荷群17人(男子8人、女子9人)を、12.6±0.4歳の活動負荷群( Active Load : 水泳競技)34人と比較している。両群間には、年齢、身長、体重の面で有意の差はない。
図6に示すように衝撃負荷群は活動負荷群に比べ、大腿頸部の骨密度FN BMD(0.78±0.02と0.72±0.02g/cu)が有意に高く、腰椎骨密度(0.70±0.03と0.66±0.03g/cu)も高い傾向を示している。
この調査で子どもたちは1日9時間以上の睡眠をとっていることも報告され、訓練時間の長い選手ほど睡眠時間も延びている。

【図6】小児(男女)の衝撃負荷群と活動負荷群における骨密度の比較
(*:p<0.05)
(Chesnut C H et al. 1993)

 われわれは平均年齢10.2±2.5歳の男児80日人、11.5±3.3歳の女児105人を対象に、基礎体力(握力、立ち幅跳び、立位体前屈、上体起こし、反復跳び)とDXA法により測定された腰椎骨密度(L〜LBMD)の関係を検索した。被験者は、身長、体重かそれぞれ各平均値から±1.0 SD以内の者で、骨折経験者は除いた。Pearson's 相関法を用いて、単相関ならびに年齢の影響を取り除いた偏相関係数を求めた結果は、表2に示す通りである。

【表2】小児の腰椎骨密度と基礎体力の単相関、偏相関
性 別男子(80人)女子(105人)
分 類項 目単相関偏相関 単相関偏相関
筋 力握 力(左) 0.8430.571*0.8310.344*
筋 力握 力(右) 0.8160.471*0.8580.435*
瞬発力立ち幅跳び 0.7430.302*0.369-0.001
筋持久力上体起こし 0.4840.0990.4000.064
敏捷性反復横とび 0.382-0.1480.4550.011
柔軟性立位体前屈 0.2200.1690.2210.252
偏相関は年齢の影響を除いて計算 (*:p<0.05)

 男女とも単相関係数は有意な相関を示し、偏相関係数では男子は握力と立ち幅跳び、また女子は握力と有意性があると認められた。それでは、なぜ腰椎から最も遠いパラメーター(握力)と相関するのか?その理由は、
i)力の伝達から考えて、手の力は幹部筋力を正しく反映するからであろう。また、
ii)ほかのパラメーターより測定誤差が少なく、再現性に優れていることも要因の一つであろう。

 運動量について、日本の小・中学校では週3回の体育の授業(45〜50分)が行われて いるが、いわゆる " Mechanical Stress "や" Impact Load "としては少なすぎるようである。 Grimston ら(*13)の報告を併せて考えると、体育の授業のない日は60〜120分程度の衝撃負荷の運動や上肢を使った遊びが男女とも必要であると考えられる。

2)高校スポーツ選手の腰椎骨密度

 発育期の高校生は、健康の指針を教育活動で身につける最終段階である。第二次性徴期をそれぞれ経験してきた男女は、筋肉や脂肪の分布がからだの使用頻度に応じて変わり、形態的には成熟期の段階にはいる。しかし、最近の小児は体格面はよくなっているものの、体力は伸び悩んでいる一面もあり、新たな課題である。

 われわれは高校スポーツ選手の男子318人、女子123人、合計441人を対象に、L〜LBMDをDXA法により測定した。男子コントロール(非運動部)と14種目、女子コントロールと10種目のスポーツ選手の成績は、それぞれ図7、8(*14)に示す通りである。年齢、各種目の間で有意の差があるとは認められなかった。

 体重50kg当たりL〜LBMDは、男子はボクシング、レスリング、バスケットボール、陸上長距離がコントロールより有意に高値を示した。これらのスポーツの特徴は、四肢をできるだけ均等に使い、かつ多様な衝撃が幹部分に伝えられるような負荷である。
これに対して、柔道や相撲はコントロールより低かった。平均体重104±20kgの相撲選手の骨折率は50%を上回っていることから、体重増加に応じた骨の丈夫さには生理的限界があると考えられる。

 女子は、どのスポーツもコントロールと有意の差があるとは認められなかった。これは、1年間につくられる腰椎骨密度のピーク(13〜14歳)を過ぎている(*3)ことから、高校の部活動だけが特に影響力をもっているとは考えにくいようである。
しかし、参考値として用いた平均年齢22.3歳の社会人ハンドポールはバイアスがかかっている可能性もあるが、コントロールより有意に高く(1.220g/cu)、継続して運動を行っていることに意味があると考えられる。

【図7】高校スポーツ選手の体重50kg当たり腰椎骨密度の比較(男子)
コントロールとスポーツ種目の差の検定
(***:P<0.001、**:P<0.005、*:P<0.01)(井本ら(*14)1995から引用)


【図8】高校スポーツ選手の体重50kg当たり腰椎骨密度の比較(女子)
どのスポーツ種目もコントロールと有意の差はなかった。
(井本ら(*14)1995から引用)

 まとめると、発育期の高校生は意図して痩せたり太ったりすることなど、競技適正のための体型づくりが戦略的には重要であろうが、将来的にみて好ましいとはいえない。L〜LBMDを自然な状態で増加させるためには、四肢をできるだけ均等に、かつ多様に使うスポーツが望まれる。ただし、ボクシングを選択すべきかどうかは、親と本人がよく話し合って決める問題である。女子は適度の運動を継続することが大切である。

3)オリンピック日本代表女子選手の全身骨密度と諸問題

 国を代表するスポーツ選手のメディカルデータを知ることは、競技適正を明らかにするだけでなく、トレーニング方法の改善や健康管理などの面からも重要である。特に女子スポーツはオーバーユース、疲労骨折、無月経、貧血など、思春期をとりまく課題が山積し、専門性は低年齢化の傾向にある。ここに、競技適正の限界を追究した2種目の、オリンピック日本代表女子選手たちを例にとり、骨量や骨密度に及ぼす運動の影響を報告する。

 対象は、柔道選手は1人で、年齢18歳、身長146.0cm、体重52.0kg、BMI( Body Mass Index )24.4である。競技暦10年で、世界のトップにあり、1997年6月の時点で現役で活躍している。長距離・マラソンランナーは4人で、平均年齢24.8±3.0歳、身長151.4±6.3cm、体重40.8±2.5kg、BMI17.2±0.5である。トレーニング量は、月間走行距離にして600km/月を下回ることはなく、時に900km/月に及んでいる。
柔道、長距離・マラソンの各選手はともにオリンピック、世界選手権大会、アジア大会のいずれかに出場経験を持ち、入賞している。また、コントロールとして、非運動部の大学生57人を対象にした。年齢20.6±0.6歳、身長156.7±5.9cm、体重51.6±5.3kg、BMI21.1±2.2である。

 全身骨密度をDXA法( Hologic QDR-2000 )で測定し、部位ごとに示すと図9(*14)の通りである。

 柔道選手は胸椎、腰椎ではコントロールと差はないが、上肢、助骨、下肢はともに高値を示している。特に、laterality が明らかな上肢の骨量(BMC)は、右(利手:171g)が左(140g)より、筋肉量(右1.936g、左1.576g)や脂肪量(右894g、左983g)の差からも使用頻度の違いが理解できる。

【図9】オリンピック日本代表女子選手とコントロールの全身骨密度の比較
長距離・マラソンランナーの腰椎、骨盤の骨密度はコントロールより有意に低い(井本ら(*14)1995から引用)

 これに対して、長距離・マラソンランナーの上肢、助骨、下肢の骨密度はコントロールと差はないが、腰椎から骨盤にかけて有意に低い。この4人に共通点は、希発月経もしくは続発性無月経と潜在性鉄欠乏、低蛋白血症などの状態で競技生活を続けている。
特筆すべきことは、そのうちの1人は19歳で初潮をむかえ、その後黄体ホルモン製剤を内服し正常月経を招来したかに思えたが、子宮の発育不全と無排卵性月経であることがわかり、22歳の若さで引退してしまった。
それでは、どのようなトレーニング内容であったのか? 本人の同意を得て8年間の日誌をもとに走行距離を算出していただいた(図10(*14))。

 回想すると、高校、大学、実業団の節目のところで月間走行距離が急に伸びているが、どの時期も数ヶ月以内に故障して(↑)、走られなくなる。
一方、彼女の育成、指導に当たってきた中学、高校、大学、実業団の指導者たちの健康管理面をみると、結果的には実業団の指導者にその責任を負わされ、信頼を失うことになる。しかし、図10に示す通り、どの段階の指導者にも彼女のオーバーユースによる性成熟の遅延の責任があるのではないかと考えられる。

【図10】ある女子長距離ランナーの8年間の月間走行距離の推移
矢印(↑)は疲労骨折または故障して走られなかったところ、 グレー部分は適正走行距離と思われる範囲を、また上段の淡いグレー部分はオーバーユースと思われる範囲を示す(井本ら(*14)1995から引用)

 このオーバーユースに関連し、ランナーは全員が疲労骨折を経験しているが、コントロールに比して得に下肢の骨密度が低いわけではない。現場では、体重や体脂肪量の多さは競技力に致命的なダメージを与えると考えられているため、ランナーは極限までやせの体型を追究する一方で、基礎体力の衰えにはほとんど配慮がなく競技生活は短い。

参考文献
(*1)Glastre C,Braillon P et al. : Measurement of bone mineral contentof the lumbar spine by dual energy x-ray absorptiometry in normal children : correlations with growth parameters. J Clin Endocrinol Metabo 70(5):1330-1333,1990
(*2)Mcomick DP, Ponder SW, Fawcett HD et al. Spinal bone mineral denstiy in 335 normal and obese chidren and adolescents: Evidence for ethnic and sex defferences. J Bone Miner Res 6:507,1991
(*3)Theintz G, Buchs B et al. : Longitudinal Monitoring Bone Mass Accumumulation in Healthy Adolesents : Evidence for a Marked Reduction after 16 Years of Age at the Levels of Lumbar Spine and Femoral Neck in Female Subjects. J Clin Endocrinol Metab 75:1060-1065,1992
(*4)福岡秀興、笠原悦夫、村山隆志:学童期小児の骨代謝に及ぼす運動効果の検討、厚生省心身障害研究平成4年度研究報告書 88-90,1993
(*5)後藤澄雄、森川嗣夫、守屋秀繁:スポーツによる小児の骨折、疲労骨折について。厚生省心身障害研究平成4年度研究報告書 85-87,1993
(*6)西山宗六、井本岳秋、友枝新一、松倉誠、松田一郎、中根惟武、沢田芳男、米満弘之:小児の骨発育と骨障害(骨折)に関する研究。厚生省心身障害研究平成5年度研究報告書 99-102,1994
(*7)井本岳秋:中高年女性の骨折、骨塩量。未発表資料。1993
(*8)村上寶久:子どもの骨を強くする。世界文化社,1992
(*9)井本岳秋、西山宗六、友枝新一、中根惟武、松田一郎、沢田芳男、:子どものスポーツ活動と骨折、骨密度。体育の科学43(9):694-701,1993
(*10)Snow-harter C R Marcus : Exercise, bone mineral density, and osteoporosis. In : Exercise and Sport Sciences Reviews. Vol 19,J.O.Holloszy(Ed.).Baltimore : Willams and Wilkins : 351-388,1991
(*11)Marhaug G : Idiopathic Juvenile Osteoporosis. Scand Rheumatol 22:45-47,1993
(*12)Chesnut C H : Bone Mass and Exercise. Am J Med 95(suppl 5A):34-36,1993
(*13)Grimston S K, Willows N D et al. : Mechanical loading regime and its relationship to bone mineral density in children. Med Sci Sports Exerc 25(11): 1203-1210,1993
(*14)井本岳秋、高沢竜一、中根惟武、米満弘之、西山宗六、北野直子、北野隆雄、沢田芳男:運動と骨量。 Climical Calcium 5(5):35〜40,1995