4.カルシウムを効率よく摂取するためには

 国民栄養調査によると、栄養素のほとんどが充足されているにもかかわらず、カルシウムだけが、これまで一度も充足されたことがない。その原因として、日本人はほかの先進国に比べ、カルシウムを一度に多量に効率よく摂取しやすい牛乳・乳製品の摂取量が極端に少ないことがあげられる。大豆製品、野菜、魚介類からはカルシウムをバランスよく摂取できている。牛乳・乳製品は間食として少量摂取するぐらいで、朝・昼・夕食の食材の一部として使われることが少ない。間食で牛乳・乳製品を増やしては、余分なエネルギー摂取となり肥満につながる可能性がある。したがって、料理のなかに牛乳・乳製品を取り入れることを勧めたい。
例えば、醤油、砂糖、塩で煮る従来の野菜料理に牛乳を加えれば、カルシウム摂取を増やすことができ、同時に、塩分の量を控えることができ、高血圧予防も期待できる。これまで高血圧の予防や治療には減塩ばかりが強調されてきたが、カルシウムを積極的に摂ることによりナトリウムの排泄を促進させることも忘れてはならない。また逆に、カルシウムの体内保留にはナトリウムの摂取過剰はさけなくてはならない。

 なお、牛乳・乳製品からのカルシウムの吸収効率は高いが、肥満、高血圧、高脂血症などの心配がある場合は、低脂肪乳や無脂肪乳等の乳製品を勧める。

 骨粗鬆症予防のために、特に思春期、更年期における、カルシウムの十分な摂取を勧めてきた。しかし、健康なからだづくりには、カルシウムだけではなくほかの種々の栄養素も必要であることを強調したい。
例えば、骨の主成分はリン酸カルシウムであり、骨のミネラルを着床させる基盤となるのはコラーゲン(蛋白質)である。また、骨はマグネシウムをはじめ、各種ミネラルの貯蔵庫であり、これらミネラルが正常に機能するために、ミネラル間の微妙なバランス調節もなされている。
塩分(ナトリウム)をたくさん摂りすぎると、尿中へ排泄されるが、同時にカルシウムの排泄も起こる。マグネシウムも同様である。
また、カルシウムとマグネシウムの比率も重要であることがわかってきている。マグネシウムの摂取量に比べ、カルシウムの摂取割合だけが高くなりすぎると、虚血性心疾患に罹りやすくなるとの疫学データもある。
カルシウムの吸収も、ビタミンD以外にもペプチドなどほかの栄養素摂取の影響を受ける。
これらのことから、カルシウムの充足にはカルシウム単体よりも、カルシウムを豊富に含む種々の自然の食品から摂ることを勧めたい。

 日本の伝統的食材である豆腐などの大豆製品はカルシウム吸収率が高く、かつ食品中に女性ホルモン作用のある物質( phyto-estrogen )を含む食品として、最近海外で注目を浴びている。
豆腐を利用した料理の一例として、”豆腐のサンド焼き”は、水切りした豆腐にチーズ、トマトソース、大葉など挟み、オーブントースターで焼くだけであるが、カルシウム量は444mgとなる(表2)。
また海藻はカルシウム以外のミネラルであるマグネシウム、鉄、亜鉛、その他フラボノイド、食物繊維などの栄養素も多く含むことから、健康なからだにとって重要な食品であると思われる。
その他、カルシウムの多い小魚類にはEPA、DHAなどのn−3系脂肪酸が豊富なことから、生活習慣病の予防効果も期待できる。”海藻と小魚のマリネ”1人前の料理で301mgのカルシウムを摂ることができる(表2)。
その他、小松菜、チンゲン菜などカルシウム吸収率は低いものの、β-カロチン、ビタミンCなど、抗酸化作用、癌予防効果のあるものとして注目されている栄養素も含まれていることから、これらの食品についても、十分に摂取することが望まして、小松菜とあなごにもカルシウムが含まれるが、これらをごま和えにすると、カルシウム222mgと、1日の1/3の量を小鉢1つで摂ることができる(表2)。

まとめ

 更年期以降、女性に多発する骨粗鬆症は、十分なカルシウム摂取と適度な運動によって、思春期に最大骨量をできるだけ高めておくこと、そして閉経後における、骨量をできるだけ低下させないことにより予防が期待できよう。また、骨粗鬆症のみならず、更年期ごろより女性に急増する循環器系疾患を予防し、高いQuality of Lifeを得るためには、若いころからの栄養バランスのとれた食生活と適度な運動習慣は極めて重要である。
このためには、できるだけ若い時期に、骨づくり、循環器系疾患予防のための食教育および健康教育を行うことが重要であり、さらに、超高齢化社会に望んで、更年期、高齢期女性の細やかで有効かつ実践的な健康教育も必要であろう。

 

参考文献

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