骨とカルシウム
〜骨の細胞とカルシウム調節機構〜

網塚憲生:新潟大学歯学部口腔解剖学第一講座
小澤英浩:新潟大学歯学部口腔解剖学第一講座

はじめに

骨はからだの支柱としてだけではなく、体外から取り入れたカルシウムなどのミネラルを貯蔵するとともに造血組織の場を提供する。人体にはカルシウムの99%、リン酸の85%が骨や歯といった硬組織に蓄えられており、その複合体はヒドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウムである。
血清カルシウムの恒常性は厳重に維持されており、ヒトでは活性型ビタミンD(1,25(OH))、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)、カルシトニン(calcitonin)などのカルシウム調節ホルモンにより骨基質からのカルシウム流出や流入を腎臓と協調して調節することにより、生体内のカルシウム濃度を一定に制御している。

骨基質はコラーゲンを主体とした有機基質とそこに沈着したヒドロキシアパタイトから構成されており、内部応力や外からの機械的刺激に対して物理学的に合理的な構築を示している。
また一方、骨組織は常に新しい骨基質と置き代わるといった代謝が認められる。例えば、成長期の大腿骨では新旧骨組織の交代に2年とかからず、成人の場合で全骨格の3〜5%は常に置き代わっている。

(図1)【低倍で観察した骨組織像】
骨梁(TB)上に骨芽細胞(OB)や破骨細胞(OC)が存在し、骨梁の骨基質内には骨細胞(Ocy)が埋もれているのが観察できる。

このような骨代謝は骨改造現象(リモデリング)に基づいており(*1)、骨の細胞の細胞間相互作用、局所因子やカルシウム調節ホルモンによりその代謝回転が調節されている。
骨の細胞には、骨原性間葉系細胞に由来する骨芽細胞、前骨芽細胞、また、造血幹細胞に由来する破骨細胞とその前駆細胞があげられる(図1)。

骨芽細胞と前骨芽細胞は骨形成に関与するとともに破骨細胞の分化や活性化にも重要な役割を果たし、さらに骨細胞と共同して骨組織の構築とカルシウム流出における細胞性関門としての機能を果たしている。

一方、破骨細胞は骨基質を吸収するばかりでなく、引き続き起こる骨芽細胞の活性化・骨形成という一連の細胞連鎖機構、すなわち細胞間のカップリングに中心的役割を果たす(*2,3)


本章では、骨組織の細胞とその機能について述べるとともに、それらの機能を制御するカルシウム調節因子について総説的に記載する。


1.骨芽細胞の細胞機能

2.骨細胞の構造

3.骨芽細胞、骨細胞の機能を調節する因子:カルシウム調節因子

4.骨芽細胞と骨細胞によるカルシウムの流入、流出の調節機構について

5.骨芽細胞の微細構造と骨吸収機構

6.破骨細胞の分化および活性の制御について

おわりに

参考文献一覧