5.骨芽細胞の微細構造と骨吸収機構

 骨吸収細胞である破骨細胞は多核巨細胞で、多いものでは100個を数える核を有する。

破骨細胞は偽足様の細胞突起を四方に伸ばし1カ所から数カ所の骨の表面を吸収しており、酵素組織化学的には細胞質に強い酸性ホスファターゼ(ACPase)および酒石酸抵抗性ホスファターゼ(TRACPase)活性を示す(*2,3,57)(図7)。

(図7)破骨細胞の電顕像。

A:破骨細胞(OC)は骨基質(B)を吸収する多核巨細胞であり、吸収部には液状縁(Rb)を有している。

B:破骨細胞の液状縁部を未脱灰切片で観察すると、骨基質の細かな石灰化構造物が液状縁(Rb)の間や、その上の空胞内に取り込まれているのがわかる(矢頭)。

 分化した破骨細胞は明確な細胞極性を示しており、アクチン線維のよく発達した明帯(clear zone)で骨表面を取り囲み、その内部に複雑な細胞突起からなる波状縁 ( ruffled border ) を形成して、その部位で活発な骨吸収を営むようになる。
波状縁に近接した細胞質内には、骨基質の消化・吸収に伴う大小さまざまな小胞、空胞、ライソゾームが観察され、そせらは骨吸収に伴って活発に細胞内を移動することが明らかにされている。
核周囲にはゴルジ体がリング状に取り囲み、ライソゾームの形成・分泌ならびに波状縁をはじめとする各種膜成分の形成・分配などに関与している。細胞質中に豊富に分布しているミトコンドリアはATP供給のみならず、炭酸脱水素酵素による酸(プロトン)の産生や細胞内カルシウム輸送や蓄積にも関係する。

 一般に破骨細胞による骨吸収は、酸によるミネラルの溶解と吸収、ならぴに加水分解酵素による細胞内外での有機基質の消化・吸収によって起こると考えられている。
骨の有機基質の大部分を占めるコラーゲンは破骨細胞から分泌される ACPase や cathepsin Lおよび K(*58,59)、さらに MMP-9 などによって分解される。
またミネラル溶解の機構としては、炭酸脱水酵素の作用によって形成される酸が、液状縁の細胞膜に局在する H+ - K+ - ATPase により能動輸送され、吸収窩表面に分泌されるためと考えられている。
これらの H+ は骨基質溶解するとともに、波状縁を介して分泌された蛋白水解酵素を活性化し、有機基質の分解・消化を促進する。
ライソゾームの波状縁への輸送には mannose-6-phosphate レセプターが関与しており、したがって加水分解酵素が分泌される波状縁と明帯で取り囲まれた吸収窩は、2次ライソゾームと同等な機能的微小環境を形成すると考えられている(*60)。
一方、ミネラル溶解に伴って遊離したカルシウムの多くは細胞内に取り込まれ、破骨細胞の外側壁膜に局在する Na+-pump により細胞外へ能動輸送されると考えられる。

 近年、VaananenとHortonらは破骨細胞の波状縁を介して破骨細胞内に取り込まれたT型コラーゲンなどの骨基質蛋白などが破骨細胞内の transcytosis によって血管側の細胞膜から細胞外に放出されることが示されており、波状縁から血管側への細胞内輸送経路を通して物質が効率よく輸送されることが明らかにされている(*61,62)。


はじめに

1.骨芽細胞の細胞機能

2.骨細胞の構造

3.骨芽細胞、骨細胞の機能を調節する因子:カルシウム調節因子

4.骨芽細胞と骨細胞によるカルシウムの流入、流出の調節機構について

5.骨芽細胞の微細構造と骨吸収機構

6.破骨細胞の分化および活性の制御について

おわりに

参考文献一覧