3.骨芽細胞、骨細胞の機能を調節する因子:カルシウム調節因子

 骨芽細胞に対する主な機能調節因子はいわゆるカルシウム調節因子であり、多くのものは骨基質を分泌している骨芽細胞とそれより血管側に線維芽細胞様の全骨芽細胞を標的にしている。
重要なカルシウム調節因子の一つであるPTHの標的細胞を同定するため、Goltzmanらのグループは(*125) I-PTHによるオートラジオグラフィーを行ったところ、PTHレセプターが骨芽細胞と前骨芽細胞に局在することを明らかにしている(*20,21)。特に後者においては微細構造学的に細長い細胞突起を骨基質に接触させる細網細胞様細胞であり、PT-cell と命名している。
また、PTHレセプターのm-RNAはin situ hybridizationによっても骨芽細胞ならびに前骨芽細胞にその発現がみいだされており、免疫組織化学からも細胞にPTHレセプターが局在することが明らかにされている(*22,23)(図5)。

(図5)骨芽細胞における副甲状腺ホルモンレセプター(PTH/PTHrPレセプター)の免疫反応像
A:濃染したPTH/PTHrPレセプターは骨芽細胞に観察される。
B:同部位を共焦点レーザー顕微鏡にて観察すると、骨芽細胞(OB)の細胞膜に一致してその免疫反応がみとめられる。また、前骨芽細胞(POB)と思われる細胞にもPTH/PTHrPレセプターが局在することがわかる。文献 23から引用。

 また、骨細胞においては骨基質表層に存在する細胞はPTHレセプターを有するが、骨基質深部に存在するものではレセプターの発現や局在は観察されない。

 最近、腫瘍細胞によって産生され高カルシウム血症を誘発する副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP : parathyroid hormone-related peptide)は、腫瘍ばかりでなく proto-oncogene として正常の骨芽細胞系細胞および軟骨細胞などに広く分布することが明らかにされている。さらに gene targeting 法により作成されたPTHrP遺伝子欠損マウスでは骨端軟骨の形成不全とそれに伴う軟骨内骨化が抑制されることが報告されている(*24〜26)。
PTHrPはPTHとのN末端アミノ酸配列がPTHと高い相同性を示すため、上述のPTHレセプターに結合することが考えられる(PTH/PTHrPレセプター(*27))。したがって、骨組織ではPTH/PTHrPレセプターを有する細胞は、 endocrine 的にPTHと、また paracrine/autocrine 的にPTHrPと結合することが考えられ、骨組織におけるPTH、PTHrPの生物学的な相互作用を難解なものにしている。

 近年、PTH/PTHrPレセプターに関しては骨端板軟骨の異形成と軟骨内骨化抑制を示す jansen type 骨幹端軟骨異形成症の原因としてPTH/PTHrPレセプターの coding region における point mutationが報告されている一方(*28)、骨組織と腎臓ではPTH/PTHrPレセプターの転写開始部位が異なることや(*29〜32)、軟骨の発生において indian hedgehog がPTHrPの上流に機能することなどが明らかにされており(*33)、PTH、PTHrPの骨、軟骨に及ぼす作用について徐々に明らかにされている。

 また、線維芽細胞増殖因子(FGF)レセプターtypeT、U、Vも広く骨芽細胞や前骨芽細胞に存在するこが報告されている。 Tanaka らはラット骨髄内に生理食塩水を用いて部分的な骨髄除去を行うと、その場に骨増生が誘導されるとともに、bFGF が過剰産生されることを報告している(*34)。
さらに 骨髄除去の代わりに bFGFを骨髄内投与すると、極微量でも新生骨が骨髄全体に観察されることが報告されており(*35)、おそらく bFGFは主に骨芽細胞の増殖に作用するものと推測される(*36)。一方、epidermal growth factor ( EGF ) レセプターも前骨芽細胞の一員と考えられる ERrich-cell および endocytic-cell に存在するが Warshawsky らにより (*125) T-EGF オートラジオグラフィーで示されているが、EGF が骨芽細胞系細胞に及ぼす生物学的作用についてはまだ明らかにされていない(*37)。

 
1,25(OH)2D3(*38),estrogen,prostaglandins(PGs)、などのレセプターも骨芽細胞あるいはその前駆細胞に局在することが知られている(図6)。

(図6)骨芽細胞におけるビタミンDレセプターの局在を示した免疫染色像

A:マウス頭蓋骨における骨芽細胞のすべてが核に一致してビタミンDレセプターの局在を呈している(矢頭)。

B:Aの免疫電顕像。核(N)内にビタミンDレセプターを示す銀粒子(矢頭)が多数観察される。文献38から流用。

 特にPTHと並んで重要なカルシウム調節ホルモンである1,25(OH)2D3に関する最近の知見として、東大の Kato らのグループが1,25(OH)2D3レセプター(VDR)遺伝子欠損マウスを作製したところ、明らかなクル病を示し生後13週で死亡することを報告している(*39)。一方、カナダ McGill 大学の Arnaud らのグループは24-水酸化酵素遺伝子欠損マウスを作製しており、離乳期まで異常を認めないもののビタミンD過剰症と同様の症状を呈することを報告している(*40)。

 また estrogen が骨梁の維持に非常に有用であることは、閉経後の女性に骨粗鬆症が多く認められることや、 estrogen 誘導体の投与が骨梁減少の抑制に有効であることが明らかにされている。
鳥類では estrogen が直接骨芽細胞に作用し、休止期骨芽細胞であるら bone lining cell を活性型に変化させることが知られているが、ヒトをはじめとする哺乳類でも骨芽細胞系細胞に estrogen レセプターの局在が明らかにされ、DNA合成やコラーゲン合成を促進することが示されている。

 近年、ヒトの estrogen レセプター欠損症では point mutatiom に伴う estrogen レセプターの合成障害によるもので臨床的には骨密度の低下と骨の成熟障害を示すことが報告されている(*41)。また、 estrogen レセプターの遺伝子欠損マウスでは、メスのみならずオスにおいても骨梁減少が起きている(*42,43)。これらの報告を合わせると、男性においても androgen だけでは補えない estrogen 特有の骨芽細胞や骨細胞に対する生物学的作用もしくは骨梁維持機構が存在する可能性が指摘される。


はじめに

1.骨芽細胞の細胞機能

2.骨細胞の構造

3.骨芽細胞、骨細胞の機能を調節する因子:カルシウム調節因子

4.骨芽細胞と骨細胞によるカルシウムの流入、流出の調節機構について

5.骨芽細胞の微細構造と骨吸収機構

6.破骨細胞の分化および活性の制御について

おわりに

参考文献一覧