4.骨芽細胞と骨細胞によるカルシウムの流入、流出の調節機構について

 骨組織におけるカルシウムの流入、流出の調節は、骨芽細胞・骨細胞系と破骨細胞による骨吸収系の2つに分けて考えることができる。

 骨芽細胞は局所因子の作用を受けて骨基質合成や周囲の細胞間相互作用を行うほかに、カルシウムやリン酸をはじめとするミネラル輸送調節や石灰化にも深く関与している。
例えば細胞膜に強くみとめられる ALPasc や Ca2+ -ATPase 活性の局在性、あるいは細胞間に形成されている gap junction による細胞性の網目構造は、骨組織における骨芽細胞・骨細胞系によるミネラル輸送調節機構の可能性を示唆している。
これらの gap junction は、一定領域で細胞集団のシンクロナイズした動態を可能にするとともに、骨細胞・骨芽細胞系によるイオンの細胞内輸送経路を可能にしている。すなわち、Bone Cell Unit として知られる骨細胞・骨芽細胞系は骨内の液相に区画を作りカルシウムの流量調節機構、特に骨からのカルシウム放出に対して大きな役割を果たすと考えられる。

 後述する破骨細胞にるカルシウム脱却は Bone Cell Unit によるものとを比較すると、全流出カルシウムの0.1%に過ぎないとする報告や、急速なカルシウムの流出は破骨細胞によるものは数%で、約70%が Bone Cell Unit に由来するという報告など、骨芽細胞・骨細胞系がカルシウム輸送における重要な細胞性関門であることが理解できる。

 このように骨組織と骨芽細胞が連携してカルシウムを溶解、流出させる機構は、骨細胞性骨溶解 osteocytic osteolysis と呼ばれている(*44)。例えばPTHにより、骨細胞はミトコンドリア内へのカルシウムの蓄積や、免疫組織化学的に cAMP の染色性が強まることが報告されている。
実際に in vivo でPTHを投与すると、破骨細胞が増加する前に血中カルシウムの上昇がみられ、骨基質からのカルシウムの流出に対する骨芽細胞・骨細胞系の役割の重要性が指摘されている。微細構造学的にもこのような機能を営んでいる骨細胞には多くの水解小体が認められ、骨小腔の辺縁も境界板が不明瞭かつ不規則な形態を示し、骨小腔内の羊毛状構造が蓄積されていることから、骨細胞周囲の骨基質が溶解されていることが考えられる。
さらにこの現象は、骨芽細胞や骨細胞が産生するコラーゲンと関連しても論じられており、骨基質中の潜在型コラゲナーゼは骨芽細胞などで産生される plasminogen activator により活性化されること(*45)、さらに matrix metalloproteinase (MMP)familyであるMMP-1 が骨芽細胞と骨細胞から、また MMP-3 が骨細胞から産生されていることが報告されている(*46)。
したがって、骨芽細胞によって分泌されたこれらの酵素が類骨中コラーゲンを分解して、その分解産物が破骨細胞の分化、誘導の一因になっている可能性も指摘されている。

 近年、 Brown らによって低濃度のカルシウムを感受する calcium sensing receptor が副甲状腺と腎臓に存在することが明らかにされており、特に副甲状腺では血中のカルシウム濃度を感受することによりPTHの産生を制御することが論じられている(*47,48)。
 Kumegawa らのグループによりもう一つのカルシウム調節器官である骨組織においても、主に骨細胞が calcium sensing receptor を有しており、細胞外カルシウムの感知応答を行っている可能性も指摘している(*49)。もしそうであれば、骨細胞は自ら細胞外カルシウム濃度の変化を感受し、速やかに骨基質からカルシウムを組織液中に放出するといった機能を有することになり、 osteocytic osteolysis の可能性をさらに裏づけることになる。

 骨芽細胞の活性やカルシウムの流出、流入調節を行うもう一つの因子として、メカニカルストレスを考えることができる。今のところ、メカニカルストレスは上に述べたように骨基質において骨芽細胞と骨細胞の無数に張りめぐらされた細胞性ネットワークにより感受される機構が推測されている。
培養骨芽細胞を用いて制止圧力が培養骨細胞に対して PGE2やPGI2産生量が増加すること、その部位では骨形成量が増加していることが明らかにされている(*50)。 メカニカルストレスがin vivo において骨小腔 - 骨細管中の組織液の流れ(液流動、fluid flow)に及ぼす影響については詳細には明らかにされていない。

 Rawlinson らはメカニカルストレスによってPGI2産生が上昇すると glucose-6-phosphate dehydrogenase活性が上がり、その下流に存在する IGF-U産生に結びつくことを示唆している(*51,52)。
また Chambers らは骨の長軸方向の静止圧力に対して、骨幹部皮質骨の骨細胞が c-fosとIGF-Tを発現していることをin situ hybrydizationにより明らかにしており、 c-fosとIGF-Tはそれぞれ1時間と数時間という異なる時点で発現が認められことを報告している(*53,54)。
さらに近年、メカニカルストレスに関して細胞膜の伸展に対して活性化されるイオンシグナル(stretch activated channel)が骨芽細胞や破骨細胞にも存在するという報告や(*55)、ズレに対する受容体(shear stress responsive element)が存在することがほかの細胞で示されており(*56)、この遺伝子発現が骨芽細胞や骨細胞に存在するか非常に興味がもたれるところである。


はじめに

1.骨芽細胞の細胞機能

2.骨細胞の構造

3.骨芽細胞、骨細胞の機能を調節する因子:カルシウム調節因子

4.骨芽細胞と骨細胞によるカルシウムの流入、流出の調節機構について

5.骨芽細胞の微細構造と骨吸収機構

6.破骨細胞の分化および活性の制御について

おわりに

参考文献一覧